第10話 エピローグ:私の宝物

 「小腹すいたぁ。ちょっと姉ちゃんみかんとってきてよ。」

こたつに肩まで潜り込んだ敬太がだるそうに声をあげる。

「やだよ自分でいきなさいよ。私は忙しいんですぅ。」

冬休みに入って実家に帰ってきている私は、寝正月を決め込んでいた。

「もぉあんた達新年早々ごろごろごろごろ、いい加減にしなさいよ。」

「「うぁ〜〜い」」

「あ、実希、あんたダイニングテーブルにスマホ置きっぱなしだけど、なんか通知来てたよ。」

「えっ。」

慌ててこたつから飛び出す。ひっくり返ったスマホを掴んで画面をなぞる。

「佐渡くんからぁ?」

こたつから亀みたいに首を伸び上げて敬太が声をあげる。

「えっなんで分かるの!」

びっくりしてスマホを胸に抱きしめる。

「いや姉ちゃん分かりやすすぎるんだよ…みかんよろしくねぇ。」

「なになに?佐渡くん元気だって?」

お母さんがニコニコしている。

 佐渡くんとの関係は、付き合うことになったその日のうちに私の家族の知るところとなった。石油王ステージを見ていたお母さんは、二人の間の何かを完全に感じ取っていたらしい。夜に電話をした時にカマをかけてきて、うっかりしっかり私はそれに引っかかった。さすがに、石油王が石油王じゃなかったという事実に動揺はしていたが、佐渡くん自体を気に入っていたお母さんは特に気にせず祝福してくれた。情報はすぐに弟にまわり、父に回ったが、みんな佐渡くんの人柄に触れていたので、反対されることもなかった。

 佐渡くんからは「あけましておめでとう!今年もよろしく!」というメッセージとともに、写真が送られてきていた。そこにはラフな格好の佐渡くんの隣で、アラビアの民族衣装に身を包んだ…石油王スタイルの瀬尾くんが映っていた。二人してピースしている。なんだろう、顔が薄いせいか、佐渡くんが着た時と違って衣装がぼやけて見える。

 あれから瀬尾くんは随分と丸くなった。高圧的な口調から砕けた言い回しがちらほら出てくるようになり、驚いたことに佐渡くんとすごく仲良くなった。どのくらい仲良くなったかというと、長期休みを利用して佐渡くんの実家に遊びに行っちゃうくらいなのだ。遠いアラブの国へ、正月価格で全てが料金割増となるこの時期にひょいと行けちゃうなんて、瀬尾くんは本当にナチュラルにお金がある。私より先に佐渡くんの実家に行くなんて、ずるいなと思うけど、まぁ佐渡くんが楽しそうだから、よしとする。

 驚いたこととえば千春ちゃんだ。なんとやりとりをしていたお相手というのは、うちのクラスの高橋くんだったのだ。文化祭が終わった後告白されてめでたく付き合うことになり、すぐに報告してくれたので二人でぴょんぴょん跳ねて喜び合った。あの日、千春ちゃんへ私と佐渡くんのことをリークしたのは高橋くんだったということがわかり、謎が解けてスッキリしたものだ。


 「おーい年賀状来てたぞー。」

散歩から帰ったお父さんが鼻を赤くしてリビングに入ってきた。

「わ!見る見る!私のあるかなー。」

スマホを机に置くと、カバー下に挟んだ写真が視界に入る。あの日クラスのみんなで撮った写真。その真ん中で笑うのは、私と、私の手を取って笑う佐渡くん。油田なんかよりずっとずっと価値のある、私の宝物だ。

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油田を持ってる佐渡くん! きゅうた @kan90

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