超番外 占い師と屍を従える王 1
※初めに
このお話「占い師と屍を従える王」は番外編となり、所謂「コラボ小説」です。
苦手な方は読み飛ばしていただいても問題ございません。
以前「小説家になろう」に掲載されている小説「屍従王」を読んだ際に私が大変感動し、作者のシギさん宛に「このお話の主人公をタロットで見たらこんな風になります」と言うお話を送り付けました。
その内容は「WEB小説の主人公、占ってみた!」というエッセイとして公開しております。
https://kakuyomu.jp/works/16818093077936178172/episodes/16818093077960495711
これをなんと作者のシギさんが「屍従王」の挿話、「屍従王と世界渡りの占い師」として小説にしてくれました。
「占い師と屍を従える王」はシギさんにご許可を頂き、「屍従王と世界渡りの占い師」をコヒナさん側の視点で書いたものです。
会話文などは「屍従王と世界渡りの占い師」の内容をそのまま使わせていただいております。
物語の舞台は一章の「エターナルリリック」の中の大都市、ダージール。
第一話と同じ時期となります。
尚、コヒナさんをはじめダージールの面々はいつも通りですので、いつも通りに見て頂けたら嬉しいです。
「死従王」の作者のシギさんへ
このお話を書く機会を頂けたこと、心より感謝申し上げます。
「屍従王」 https://ncode.syosetu.com/n3424ha/
****
「コヒナ殿は、アンデットモンスターはどうですかな?」
「アンデットモンスターですか~? どう、と言いますと~?」
ギンエイさんの言葉に私は首をかしげる。
<エターナルリリック>、略して<エタリリ>と呼ばれる人気MMORPGの世界の中でも最もにぎわう街、<ダージール>。
私はそこでプレイヤーさん相手に占い屋さんを営んでいる。
アバターはエルフ族という、人間族の子供位の大きさの、妖精のような種族。緑のマギハットに緑のドレス、いくつもつけたアクセサリーと見た目は派手な格好だがレベルは11。本来ならばこの町にいるのが申し訳ないような弱さだ。
声をかけてくれたギンエイさんはマーフォーク族。マーフォーク族はいわゆる人魚さん。足はちゃんとあるけれど。人間族と同じくらいの大きさで、体の所々に見えるヒレときらきら輝く鱗が特徴の種族だ。
二角帽子とスマートな顔に後からつけた感たっぷりの髭がギンエイさんのチャームポイント。チャームポイントと言いつつも髭は日によってあったりなかったりするので恐らく付け髭だが、凄く伸びるのが早い人だという可能性も否定できない。
ギンエイさんは私と同系統の変わり者で、この<エタリリ>の世界の中に「ギンエイ座」という劇団を立ち上げてしまったとんでもない人だ。私と違うのはギンエイさんがとても強いということで、過去には<エタリリ>の攻略動画でも相当な人気を誇っていたらしい。
ワタクシはとっくに隠居しました、みたいな顔をしているが、きっと今でも強いんだろうと思う。ギンエイさんのことを先生って呼ぶ人もいるくらいだからね。
ギンエイ座は大変な人気なので座長のギンエイさんは大変忙しいはずなのだが、ちょくちょく抜け出してきては私の話し相手になってくれる。
私としてはありがたい半面、心配にもなってしまう。
ギンエイさんに言わせると向こうにも同じ姿の「二号機」がいるので大丈夫、と言う話になる。冗談なのだろうけど、せめて向こうに置いてくるのを一号機にすべきではないだろうか。
「コヒナ殿はアンデットモンスター、ことにスケルトン等は苦手ではございませんかな?」
ギンエイさんの言葉に私はますます首をひねる。
「スケルトンですか~? いえ、特には~」
スケルトンが苦手ではファンタジー系のゲームはできないだろう。リアルで会ったら怖いかもだが、どうかな。小さい頃は骨格の模型とか怖かったけど、今ならなんか感動してしまいそうだ。
襲ってきたらもちろん怖いけど、それを言えば生きてる人間の方が怖い気もする。
「ならばよかった。コヒナ殿は死神に似たモンスターが苦手とカラムに聞いたものですからな」
「あ~、なるほど~」
私は占い師でありながら≪
その時助けてくれた人達の一人がギンエイさんのお友達の斧戦士カラムさんだった。
グラフィックでしかないモンスターが怖いとは大変恥ずかしい話であるが、怖いものはこわいのだ。仕方がない。
しかし確かにスケルトンはガイコツ顔だけど、あまり怖くないな。
「アンデットモンスターは平気ですね~。あれは≪
「ほう? というと?」
ギンエイさんはそう聞き返してくれる。けれど、大丈夫かな。こんな話興味があるだろうか。
「アンデットモンスターは「死なない」モンスターですので~。「終わり」を示す≪
「ほほう! 物語の設定と申しますと、例えば?」
意外にもギンエイさんは食いついてきた。こんな話、聞いてて面白いかな。大丈夫?
「例えばですが~。ヴァンパイアなんかは不死云々よりも「夜」に関わる要素が強いですから、≪月の正位置≫とか、≪太陽の逆位置≫の方がピンときますね~」
「おお、確かにそうかもしれませぬなあ」
「一枚で表そうとすると、ですけれどね~。<エタリリ>のリーパー種みたいにそもそもが≪死神≫をモチーフにしたアンデットもいるでしょうし~。でもそうなってくると、もうモンスターと言うよりもっと上の「神様」とか「奇跡」に近いものなのではないかと思います~」
リーパー種がアンデットなのか神様なのか、その辺はどんな風に扱われているのか私にはよくわからないけれど。
「奇跡、ですか」
「はい~。≪
≪
死人が生き返ってくるなんて、神話の世界でも最上級の奇跡だ。大体は途中で失敗してしまうか、成功したとしてもバットエンド。「死」は、そのくらい人にとって絶対的な「終わり」なのだ。
<エタリリ>のようなRPGゲームにおいても死の扱いは難しい。
矛盾を避けるため、ゲームによっては<死亡>を<戦闘不能>として明確に区別している場合もある。
<エタリリ>ではアバターは「死」ぬし「生き返り」もするがこれはプレイヤーの、<主人公>の特権だ。
真のこの世界の住人であるNPCが物語の中で死んでしまったなら、彼らが生き返ることは決してない。「生き返り」はこの世界の外からやってくる私たち<プレイヤー>が操作する<主人公>だけの大いなる特権だ。
<主人公>に≪死神≫が付くこともあるにはあるけれど。
いずれにしてもこのシステムがなければ私は自分のしたいことができなかったろう。ただ、それは同時にNPCであることを目指す私にとっては大きな矛盾でもある。困ったものだね。
ほんとのアンデット―《死神の逆位置》は私かもしれない、なんて。
……これは自虐にしてもタチが悪いな。 よし、ここまで!
「それにしても、なんでアンデットなんですか~?」
「おお、そうそう。本題を忘れておりました。コヒナ殿は<占星術師の腕輪>というアイテムをご存じですかな?」
「<占星術師の腕輪>、ですか~?」
なんだろう。私がする占いはタロットで、占星術は関係ないとまでいかなくとも別の業ではある。しかしながら<占星術師の腕輪>なんて名前に引かれないわけがない。
「ご存じないですが、何ともそそられる名前のアイテムですね~」
「よろしければ是非、検索して見て戴きたく」
ギンエイさんにそういわれると気になるな。どれどれ。
私は運営のホームページから<占星術師の腕輪>を装備した際の動画を見てみた。
こ、これは!
「可愛いっ!」
三つの大きさの違う金色のリングがワンセットになっていて、細かい細工の鎖で繋がれている。一番小さい輪でも手首の太さよりずっと太い。
リアルでこの腕輪を装備しようものなら、手を下おろすことができないだろう。三つともがしゃーんと落ちてしまう。何なら手を上げるのも難しい。きっとずっと宙ぶらりんですごく肩が凝る。
しかしそこはゲームの世界。どんなポーズをしても何故か腕輪は落ちず、時に重なって綺麗な形を作り出し、時に触れ合ってかちり、と金属の音を立てる。
うわあ、こんな可愛い装備があったんだ。いいないいな。
「これは、おいくら位で手に入るものでしょうか~?」
ダージールに来てから一年以上が経っており、儲けの少ない占い稼業とはいえ実はかなりの貯金がある。普段使わないからね。カラムさんの持っている白なんとかの斧みたいな超高級なドロップアイテムでさえなければ何とかなるはずだ。
「それがですな。実はこちら、とあるイベントクエストの途中で手に入るアイテムでしてな。譲渡不可なのでございます」
「そ、そんな!」
がーん。
私のレベルは11。ダージール周辺の推奨レベルは50。町の外に出れば一瞬でモンスターに殺されてしまう。
なので基本的にモンスターを退治して何かを得ると言ったことは全くできないのである。
大抵のことは所詮自分はゲームに参加していないNPCなのだからと諦めてしまう私ではあるが、これはあまりにも残念だ。
「おっと、どうかご安心を。クエストとはいってもモンスターを倒すタイプではなく、とあるダンジョンの奥におります予言者に話しかけることで手に入るのです」
「おおお~」
やんややんや。
「そのダンジョンと申しますのが、アンデットだらけのダンジョンでございまして」
あー、なるほど! たしかにそこが死神だらけだったら私は動けなくなるだろうな。
でもアンデットなら大丈夫だ。ダンジョンのレベルにもよるが上手く敵を避けながら予言者さんの所までたどり着き、帰りは<帰還石>でダージールまでひとっとび。
<帰還石>は一度行ったことのある場所にテレポートできる魔法のアイテムで、初期アイテムとして各アバターに一つづつ配布されている。
それにもし死んでしまっても―戦闘不能になってしまっても問題ない。何故かダンジョンの奥に通りがかったNPC行商人さんが、<帰還石>にホームとして登録されているダージールの町まで私を届けてくれるはずだ。
恐るべしだねプレイヤー特権。NPCを目指すものとして、どうなんだろうな。
「コヒナさん、こんにちは。……ギンエイ先生も」
そこにもう一人のプレイヤーがやってきて声をかけてくれた。
あ、イケメルロン君だ!
「メルロンさん、こんにちは~!」
「おおメルロン君、丁度よいところに来ましたな」
ギンエイさんはそういうと、イケメルロン君を見てなにやらニヤリと笑った。
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