超番外 占い師と屍を従える王 2

「コヒナさん、こんにちは。……ギンエイ先生も」


「メルロンさん、こんにちは~!」


「おおメルロン君、丁度よいところに来ましたな」



 声をかけてくれたのはメルロンさんと言う方。


 メルロンさんは私と同じエルフ族。子供キャラなので私よりも小さい。私はメルロンさんには信じられないくらいお世話になっている。そもそもメルロンさんと会えなければ私はダージールに来ることなどできなかったのだ。


 金髪に青い目というイケメン容貌と助けてくれた時のイケメン行動から、私は心の中で「イケメルロン君」と呼んで日々感謝を捧げている。


 実際にイケメンであるイケメルロン君の人気は高くて、一緒に遊びたい人が私の所に探しに来たりする。


 言ってもイケメルロン君は別に私の所にいるわけではなくて、インとアウトの時に顔を出す位なんだけどね。ここから動かない私と一緒ではゲームができない。


 ちなみに探しに来るアバターの割合としては女の子が多い。凄く困っていたところを助けてもらった、なんて言う話をしてくれた人もいる。流石イケメルロン君だね。私の時を思い出す。


 居場所のことは実はどこにいるの、って自分で個人チャットで本人に聞けばわかるんだけどね。


 でも町とかダンジョンで偶然会いたいんだよね。そこからじゃあせっかくだから一緒に遊ぼうか、みたいな流れ。わかるわかる。自分から一緒に遊ぼう、って声かけるのはいくつになっても大変なものだ。


 確かに優しいしいろいろ気を使ってくれるし、一緒にゲームしたら楽しいだろう。私も一緒に遊ぶならイケメルロン君みたいな人がいいよ。



「丁度いいところに、ってギンエイ先生が呼んだから来たんですが」


「まあまあ、それは置いておいて。ちょっと一緒に話を聞いていただきたい」


「はあ……」



 ギンエイさんの言葉にイケメルロン君が気のない返事をする。


 この二人の関係もよくわからない。ギンエイさんは何かにつけてイケメルロン君のことを話題に出すし、イケメルロン君はイケメルロン君でギンエイさんのことを面倒そうにしながらも決して蔑ろにしないというか。


 この二人の間にも私の知らない物語があるんだろうな。



「ええと、どこまで話しましたかな。そうそう、コヒナ殿が手に入れたい<占星術師の腕輪>がイベントアイテムで、手に入れるにはダンジョンの奥にいるNPCに話を聞かなくてはいけない、とここまでですな」



 そうですな。


 突然巻き込まれたイケメルロン君にもわかりやすく説明したんだろうけど、それにしても明快でわかりやすい説明だな。



「そのダンジョン、と申しますのがですな。リザードマンの二番目の町<ウィスク>の側、<予言者の隠遁所>という場所でございます」



 むむむ。


 <エタリリ>の物語の仕様上、アバターは全てキャラクター制作時に選択した種族の小さな村で生まれる。


 同じ種族の町二つを経て経験を積み、それから中央都市ダージールを目指すという流れだ。


 ダージールよりもレベルの高いところでなかったのは幸いだけれど、これはダージールの側からリザードマンさん達の三番目の町に抜ける必要があるということ。


 つまり私がエルフの町からダージールに来るまでに越えて来たダンジョン、<嘆きの洞窟>と同程度のダンジョンを逆向きに超える必要があるということだ。



「ええ。一番の難所はダージールから<テキル>に抜けるダンジョン、<後悔の洞窟>でしょうな。とはいえこちらから通る際にはボスは出ませんので、ベテランの冒険者が一人おりましたらコヒナ殿の護衛も問題ないでしょう」



 むむむむ。


 それは裏を返せば、ベテラン冒険者がいなければ私一人では越えられないということだ。



「本来ならワタクシが同行したいところなのですが、 誠に残念ながらこれから劇団の方に顔を出さねばなりませぬ。嗚呼、どなたかコヒナ殿の護衛を引き受けてくれる勇者はいないものでしょうか……。おやっ?」



 そういってギンエイさんはワザとらしくイケメルロン君を見て驚いて見せた。


 イケメルロン君がはあ、とため息で答える。



「嗚呼とか、おやとか言いながらフレンドチャットでダンジョンの攻略情報送ってくるの、やめてもらえませんか」


「おっと、これはツレない。ワタクシ、弟子であるメルロン君の為を思えばこそですな」


「だから、そういうんじゃないですから」



 またいつも通りのじゃれ合いが始まる。というか個人あてフレンドチャットって。私の見えないところでそんなことしてたのか。


 しかし毎度毎度メルロンさんのお世話になるのもなあ。


 無茶苦茶なゲームスタイルをしているのは私のわがままなのだから、私のできる範囲で行動すべきだと思うのだ。私のレベルもあの時は1だったけど、今はもう11。ダンジョン内のモンスターに噛まれても何回かは耐えられるはずだ。



「メルロンさん~、大丈夫ですよ~。自分で何とかしてみますから~」


「ああ、いえ。そこは大丈夫です。いつも言ってるじゃないですか。行きたいところがあったら言って下さい、って」



 うひゃあ。


 相も変らぬイケメン振り。流石イケメルロン君だね。


 諸々ひっくるめてなんとかお礼をしたいものだけど、私が手に入れられるものでイケメルロン君が手に入れられない物なんか無いんだよなあ。



「うう、いつもすいません~」


「いや、言うほどいつも、ってわけじゃないでしょう。こういうのも刺激があって楽しいですから、気にしないでください」


「ううう、ありがとうございます~」


「おっと、マズいですな。よそ見しているのがバレました。キティが確認しに来る前に失礼をば。お二人とも健闘をお祈りしておりますぞ! 」



 ギンエイさんは突然そういうと転移石を使って何処かへ逃げてしまった。もしかして本当に二つのキャラを操作してて副座長さんにバレたのだろうか。


 なんてね。



「では、弓、ダンジョン攻略用のを持ってきます。ちょっと待ってて下さいね」



 メルロン君が言う。


 連れて行ってもらう、ついて行く。それだけだとしても、こういうのは確かに久しぶりだ。



「はいっ! ありがとうございますっ!」


「ん? あはは、なんだか元気ですね」



 おっと、テンション上がりすぎたかな。つい素のしゃべり方が。といっても今のしゃべり方も大分長くなったので、どっちが素なのかもう私にもわからないんだけどね。

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