超番外 占い師と屍を従える王 3
ダージールからリザードマン三つ目の町の<テキル>に抜けるダンジョン、<後悔の洞窟>。
今回の旅の最初にして最大の難関だ。
「死んじゃったらごめんなさい~」
「あはは。いえこちらこそ。万が一のことがあったら、大人しくダージールからやり直しましょう」
「ありがとうございます~」
ううむ、流石イケメルロン君だなあ。気が楽になったよ。
でもやっぱり何回かは死んじゃうと思うし、蘇生薬を十個ばかりイケメルロンさんにお渡しした。
いらないと言われたけれど、今の私にはこれくらいの余裕はあるのだ。イケメルロン君への護衛代とすれば安いもんである。私の心苦しさを紛らわせるためになんとか貰って頂いた。
以前に同程度の難易度のダンジョンを超えた時は一番レベルが高かったのがゴウさんと言う騎士さんの70。それにレベル50前後の人が4人とレベル1の私と言うパーティー構成だった。
あの時はボスを倒さなくてはいけないという縛りがあったのと、何より最後に出てきた強敵のせいで大変な苦戦を強いられた。
今のイケメルロン君のレベルは80越え。あの時のゴウさんよりも高い。
メルロンさんの使う弓は攻撃力が高くて射程も長いというシステム上強力な武器なのだけれど、扱いが難しいので今一つ人気がない。敵に接近されればなにもできないし、タイミングとか照準がそれると全然ダメージが当たらなくなるらしい。<エタリリ>の中では他の武器に比べてちょっとマニアックな仕様と言える。
逆に言えば弓を扱える人は強い。この辺りが「弓使いはズルい」などというよくわからない文句が出る要因なのだろう。
この難しい弓の扱いをイケメルロン君はギンエイさんから学んだらしく、それでギンエイさんのことを「ギンエイ先生」と呼ぶ。
ギンエイさんの戦いは見たことがないけれど、凄い人だったというだけのことはあって、その弟子のイケメルロン君の腕前もやはり凄いものだった。
敵モンスターが、見える前に消える。
通常よりも遠くが見えるのは弓使いのスキルらしい。だから私の目に入る前に危険なモンスターは狙撃されていく。
凄い数の敵がいるところでは、凄い数の矢をいっぺんに放って敵を一掃していく。
まあそれで全部の敵を倒しているとMPも大変なので、あくまで危険な敵や、数が多い時だけ。
それ以外は基本、モンスターを避けて走る、走る。
イケメルロン君も走る。
なんだか私といるといつも走ってますね、イケメルロン君。
全部私のせいなんだけどさ!
「きゃあぁあああ~、きゃあああ~!」
イケメルロン君のお陰で余裕があるので逃げる時の悲鳴もちゃんとそれっぽくあげられる。
「うおお~~~」
イケメルロン君も同じように叫びながら後を追いかけてくる。
あはははは。
似合わないなあ。
だって、私が出会う前に危険なモンスターは仕留められているんだから。
この世界に来て最初の冒険、ホジチャの町からセンチャの町への、イケメルロン君と一緒の旅を思い出す。
きっとイケメルロン君もそうなんだろうと思う。
イケメルロン君はすごく強くなった。
変わっていないのは私だけだ。これは正しいことなのかな。
そもそも私の目的は、強くなることでも、世界を救うことでもなくて。
「コヒナさん、出口です!」
「おお~!」
早い早い。
一年以上前。
丸二日掛けて攻略できず、あきらめかけたのと同難易度のダンジョンを、私とメルロンさんは一時間足らずで駆け抜けた。
「大分遅くなってしまいましたね。ここからは明日の方がいいでしょうか」
テキルの町。
完全夜型の私としてはまだ遅いという時間ではなかったが、イケメルロン君をそれに巻き込むわけにもいかない。どのみちこの先も結構長いしね。
翌日の集合時間を決めて今日はお開きにしようということになった。
「お世話になりました~」
「いえいえ。こちらこそ楽しかったです」
ううん、そうかなあ。本当かなあ。
私ばっかり得をしている気がするよ。
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