第55話 斧戦士コヒナ 4

「斧、いくつくらいになった?」



 クロウさんに聞かれてスキルを確認する。



「28です」



 他の関連スキルも軒並み20以上に上がっている。



「よし。じゃあ、そろそろ撤収するか!」



 クロウさんがそう言うやいなやネロさんがゲートを作って、私たちはそれを通って町へと帰還した。



 町の冒険者ギルド前の広場。



 手に入れたゴールドは皆さんにとってははした金だということで、全部持って行けと言われたのだけれど、合計4万ゴールド以上の大金を受け取るわけにもいかない。


 なんとか断って四分の一、何もしてないのでその半分、ということで5千ゴールドを私の取り分としてもらった。今日の戦闘で筋力のステータスも大きく伸びたとはいえ、5千ゴールドは私の持てるぎりぎりの重量だ。


 金貨って重いんだね。



「コヒナさん、楽しかったー?」



 クロウさんが聞いてくる。



「はい。おかげでスキル、沢山上がりました。すっかりお世話になってしまいました」


「いやいや、気にしないで! 俺も初めの頃先輩たちには世話になったから」



 クロウさんがそう言って、他の人たちも満足そうに同意した。


 クロウさんの言う通りなんだろう。この人たちはみんな、凄く優しい人たちだ。間違いない。何も知らない私を楽しませようと手を尽くしてくれた。先輩から受けた恩を新人の私に返してくれているのだろう。


 もし、昨日、一番先にクロウさんに会っていたら、私も心からそう思っていたかもしれない。



「コヒナさん、よかったらうちのギルドに来ないかい。色々教えてあげる。メンバーも多いし、楽しいよ」



 クロウさんが言ってくれた丁度その時、広場の前の大通りを、大きな生き物が横切った。



「今のは」


「あー、珍しいね。ジャイアントストラケルタ。騎乗スキルと獣使いのスキルどっちも必要で使う人あまりいないんだよ」


「そうなんですね。可愛いのに」


「んー、便利と言えば便利だけど、獣使いスキル上げるならもっと強いペットいるし、全部中途半端な」



 説明してくれるクロウさんにはとても申し訳ないけれど、それ以上聞きたくない、と思ってしまった。あの子、ジャイアントナントカコントカじゃないよ。


 ロッシー君、って言うんだ。



「すいません、今の方、知り合いでして!」



 クロウさんの言葉をさえぎるように言う。



「あ、そうなの? ゴメン」


「すいません、見失うといけないので、行きます。今日は本当にお世話になりました!」



 大変人通りの多い、町の広場の真ん中ではございますが、緊急事態につき失礼。


 べーん。


 私はもらった装備を全部脱ぐ。



「これ、ありがとうございました!」



 あげると言われた装備一式を、半ば強引にクロウさんに押し付ける。


 それからなんの効果もない、ただの羊毛でできた「自分の服」を身に着け、もう一度、親切にしてくれた皆さんにお礼を言う。



「本当にお世話になりました! ありがとうございました!」



 勢い良く頭を下げて、さっきの大きな生き物のあとを追いかける。


 お世話になった皆さんがぽかんと口を開けて見ているのを背中に感じる。とても優しい人たちだった。



 でも、あれは冒険じゃない。



 昨日は一匹もモンスターを退治しなかった。羊さんの毛を刈ってゴブリンから逃げただけ。でも心躍る冒険だった。ゲームから離れてお仕事をしている時にも、時々にやけてしまうほどの。



 だから、


 この世界のことを教わるのなら、あの人がいい。



 思い切り走りながら、裁縫屋さんの前、ロッシー君から降りる人影にむかって呼びかける。


 NPCの様な生活感丸出しの服装の、とても冒険者には見えない人。


 でもたった一日、数時間で私にこの世界の「冒険」をさせてくれた人。



「ナゴミヤさん!」


「え、うわ、何、何⁉」



 今日はゴブリンは連れていないというのに、ナゴミヤさんは初めて会った時と同じような反応をした。



「ナゴミヤさん!」


「は、はい!」



 これが冒険なんだと私に教えてくれた。


 ナゴミヤさんには、責任を取ってもらわなければいけない。


 何故か気を付けの姿勢になっているナゴミヤさんにそのことを伝える。



「私の師匠に、なって下さい!」

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