第4話 ㊺異能者はすごすぎ大魔神

 正面にはみんなして教室の隅に縮こまっている親愛なるクラスメイトたち、もといハーレム圏第一メンバーの面々と、彼らをかばうようにして立つ浄瑠璃、それから三歩ほど前にかまちょ幼馴染の虹色きらり、とその後ろで震えているザコちゃんこと黒姫燦。


 ああそうそう、今はザコちゃんのターンだったっけか。


 まあでも、華麗なる大ハーレム長として迷える子羊に一滴の聖水を与えてやらんこともねーよなー。


 へへっ、リップサービスならくれてやるぜ。


「黙ってて悪かったなァ黒姫。俺はよォ、だったのさ」


 自身が持ちうる最大限の低音を響かせ、そして追加でウィンクまでしてやった。サービス精神旺盛な伊能である。


 案の定、黒姫は乙女のハートを撃ち抜かれたような顔をしてこちらに返す。


「じ、実は放課後に世界を救っている系高校生……? え、待って。世界、救うって……。そんな、そんなの、ってさ。…………超すごいじゃん……」


 …………知ってた。知ってたけど、うん、なんつーか、やっぱアホの子だなこの子は。


 教室の隅からどよめきが起こる。


 コレだよコレぇ! この目立ち方だよう俺が求めてたのは。


 キモチーーー! 


 世界救いたいとか、そんな馬鹿げた理由で自称天使なんかと契約するわけねーだろーがよう! 


「そうなんです、伊能くんって、超すごいんです。もっと褒めてもいーよ黒姫ちゃん」


 隅から再度どよめき。くぅーーー!


「す、すごい! いのーすいほのくせにっ! すごいっ! すごすぎ大魔神っ」


「そうです、俺の名はすごすぎ大魔神っ。伊能推歩はすごすぎ大魔神っ」


「すごすぎ大魔神っ」


 ああ、たまんねえー。生きててよかったー。アホの子さいこー! 前言撤回! 黒姫ちゃん、君は今日から大ハーレム圏最有力候補だ! 


 黒姫の脳みそは納豆でできているという都市伝説は本当なのかもなー。のーみそ? とりあえず発酵させときゃいいっしょ! みたいな。そんなノリで黒姫の天才的頭脳は誕生したそうな。


 ちなみにおっぱいはらしい。健康食品って感じだ。


「おっと、悪いが惚れるんじゃねえぜぇ黒姫、生憎、俺にはもう心に決めた人と心に決めた大ハーレム圏有力メンバーが――――」


「――――アンタ、変態関係なくきもいわよ。なんか逆に安心しちゃうくらい」


「何を言うか!」


「燦ちゃんも乗せられないの。推歩みたいな悪い男に騙されちゃだめなんだから」


 アホの子相手に気持ちよくなっているところにすかさず横やりを入れてくるきらり。もう先ほどの動揺っぷりは整ったらしい。ほんとこいつは腐っても平常運転だな。


「と、とにかく警察と救急車を呼んでくる! お前たちはこの場で動かないように」


 おぉっと出ました浄瑠璃先生! 


 ここで颯爽とでしゃばってきやがりました僕らの浄瑠璃大先生! 


 生徒の安全を第一に考えつつ、助けを呼ぶためならば危険が闊歩かっぽする廊下の暗がりに臆することなく飛び出そうとするその自己犠牲精神に俺たち私たちは心を打たれ……るわけねえだろうがボケェ! 


 教師面して我先に逃げ出したいという魂胆が見え見えじゃボケェ! 


 どころか、合わせて善人ポイントまで稼ぎにかかるというこの姑息さ。


 あーやだやだ。やだねえ高校教師なんて。高校教師なんて全員まとめて……。おっと危ない危ない。危うく某心霊スポット内でしか許されないアウトオブ日本国憲法なことを発言するところだった。


 ドタバタと廊下へと消えていく浄瑠璃。けっ、何が救急車を呼んでくるーだ。俺たち生徒を手玉に取っていると思ったら大間違い、大、間違い……。


 んー、救急車? 


 警察はまあ当然として、なんで救急車を呼ぶ必要があるんだ。


 救急車。


 急病人を救助する、車。


 急病人、もしくは怪我人? 


 はっ、そうだ、天音さん! 

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学校に悪魔が現れたから異能持ちの俺が無双する……って、お前も異能使えるの⁉ えなどりまん @haruokahatio

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