第3話 ㊺異能者と伊能推歩大ハーレム圏
低級悪魔は、死んだ。
俺、伊能推歩の、天使と契約した異能者の、デビルハンターの手によって。
あっけなく。実にあっけなく。
しかしそれでハッピーエンドにしてしまうにはあまりにも露骨に謎が残るのだった。
俺は消え去っていった悪魔のあったそこを見つめながら、肉片どころか塵しか、塵すらも残さなかったそれについて考察し、やっぱり、どうしようもなく不可解に思う。
弱すぎる。
別に俺TUEEEと言いたいわけじゃない。
俺の異能者としての能力如何を考慮するまでもなく、今回の悪魔は弱すぎた。低級過ぎた。
低級で低俗。だからこそ天音さんのお胸が危機に晒されたんだが。イッパイパイパイとか言い出すんだが。
通常、悪魔というのは位が上がるほどに強く、賢く、理性的になる。そしてなにより、人間界への影響力が大きくなるのだ。
強い悪魔ほど人間界に大きな災厄をもたらす。死してなお、その肉片は悪運という悪運を呼び寄せ新たな悪魔を呼び寄せる。
とまあ、天使の説明によるとこんな感じらしい。
だがコイツは違う。
雑魚で、低俗で、死んでも塵すら残さない。
なのにコイツはどういうわけか五時間目の授業中、すなわち夏の陽照りつける真っ昼間に現れ、そして天音さんのお胸をお触りするという隕石衝突級の災厄を実行してみせた。本来ならば、世界中のデビルハンターが総集合して対処するような歴史的な上級悪魔でないと話が合わないのだ。
何かがおかしい。
まるで、今回の事件はただのきっかけにすぎないみたいに――――
「ちょ、ちょっと推歩!」
……いやほんと、とことん邪魔ばっかりするヤツである。
十数年隣で聞き続けてきたその声が誰のものだなんて分かりきっていたけれど、俺はうっとうしさ半分、みんながどんな顔をしているんだろうという期待感半分で、声のした後方へと振り返る。
あごが地面につきそうなほど伸びきっているヤツ、半狂乱といった様子でこちらをのぞいているヤツ、各人実に個性豊かで多彩ではあったが、とにかく驚いているということだけはビシビシと伝わってくる。
声の主はというと、とにかく汗の量が尋常じゃなかった。
脇びっしょびしょにしちゃって、間抜けなものである。今すぐ写真に収めてやりたい。
「んだよ、何か文句でもあんのか? きらり」
「大アリよ! あたしもう何が何だか分かんなくて頭の中の妖精ちゃんが高速タップダンスっちゃってるんだけど、え、ええと、えとえとおおとにかくアンタ、変態すぎてきもい!」
頭の中の妖精ちゃんとかいう闇深ワードはさておき、変態? はてさて一体誰のことだろう。
変態なら今ちょうど俺が退治したところなんだけどなあ。俺のおかげでこの世はまた一歩女性が安心して暮らせる世界へと近づいたんだけどなあ。
「いいいいにょっ、いのーすいひょっ! おお、お前は一体」
今度はきらりの袖に隠れてこちらを威嚇してくる猫のような声。黒姫だ。
ザコちゃんの異名にふさわしい見事な噛みっぷり、もはや芸術である。
俺はその噛みっぷりに敬意を表して、一つ格好良く決め台詞をのこしてやろうと思った。というか、正体ばらして、文字通り命懸けてまで戦ったんだから、ちょっとくらいチヤホヤされたい。
チヤホヤ?
いや違うね。正直に言う。
モテたい‼
めっちゃ‼
あーなんかやべーよ急に衝動がやべーよ。リピドーだよリピドー。
よーしこうなったら話の前後とか文脈とか全部ぶったぎって俺の内なる衝動を長々と解説するぞー! 超脱線するぞー!
ズバリ、俺はですね。
……モテたいのですよ。どのくらいモテたいかって言われると、それはもうモテまくりたいのですよ。
具体的には私立一里塚高校二年一組に、伊能推歩大ハーレム圏を形成したいのですよっ‼
もちろん天音さんもその一員として含みたいっ!
あとそれからそれから、あの子とあの子とあの子は絶対必要だし、あの子あの子も居てほしい! し、あの子とあの子と、あとはっ!
あとは――――きらり、は騒がしいからいらないな。うん、全然いらない。あんな大怪獣みたいな女が居たら俺の楽園が崩壊しちまうぜ。百害あって一利なし。
それから――――黒姫もどっちでもいいや。どっちでもいいし、もっと言えばどうでもいい。あいつとは一年の頃から同じクラスだったから、もう一年半ほどの付き合いになるのにここまでどうでもいい人間も珍しいものである。言動がザコすぎて色気の欠片もねーぜ。
まあ、それはそれとして、楽しみだなぁ、伊能推歩大ハーレム圏。
実に
……あれ、マジで何の話だっけ。
んー、まあいっか‼
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