仲直りのしるし

@kajiahra_3141

第1話

やってしまった。友達と、喧嘩をしてしまった。私、はるは兵庫県に住む社会人だ。そんな私には、少し変わった友達がいた。

それは、ネットで知り合った友達の大ちゃんだ。大ちゃんは神奈川に住んでいるので会うことはなかったが、それでも仲良く過ごしてきた。LINEで毎日連絡は取っていたし、たまに電話もしていた。私が女で大ちゃんが男なのだが、恋愛感情なんてものは

互いになくこれまでは過ごしてこれた。たまに大ちゃんが「付き合っちゃう?」なんて冗談を言ってくることもあったけど、毎回適当に聞き流すとそれで話は終わった。そんな大ちゃんと、喧嘩をしてしまったのだ。ことのきっかけをしっかりとは覚えて

いないのだが、電話をした時に私が「そんなの気にしなくていいのに」と言ったことに対して大ちゃんが突然怒ったのだ。普段の大ちゃんであればこんなことで怒りはしないのに、虫の居所が悪かったのか怒り始めた。そのことに私も腹を立ててしまい、

「もう連絡してこなくていいよ」と言ってしまった。するとそのタイミングで電話が切れて、それからはLINEも来なくなってしまった。私が悪いという気持ちはあるが、大ちゃんにだって悪い部分はある。それでも連絡がないことを寂しく思い私から

連絡をしてみたが、大ちゃんからはなんの返事もなかった。そんな状態が一週間ほど続いて、いよいよ私からも大ちゃんへ連絡をしなくなった。何かあれば連絡が来るだろうと思うことにしたのだ。それから3日ほど経ったある日のこと、私はスーパーで

買い物をしながら、不意に大ちゃんのことを思い出すことになった。それは、スーパーでカップラーメンのコーナーを歩いていた時のことだった。

「あ、そういえば、これ、大ちゃんがおいしいって言ってたな」

そんな他愛のないことをふと思い出しただけで、私の胸はいっぱいになった。私にとって、大ちゃんは大事な存在なのだ。

あの時の私はどうかしていた。売り言葉に買い言葉なんて、大ちゃんの性格を考えれば絶対にしていいことではないはずなのに、してしまった。頭には後悔の念しか出てこない。どうすればいいだろうか。私から大ちゃんに連絡をしても、大ちゃんからは

なんの連絡もない。このままではまともに話すこともできなくなってしまう。そんなことを考えながらカップラーメンのコーナーを歩いていて、ふと思い出すことがあった。そうだ、そう言えば、大ちゃんは昔に関西限定のあるカップ麺が好きだと言っていた。

そのカップ麺が売っていないか少し探してみると、見つかった。『赤いきつね』だ。大ちゃんが前に話していたことだが、どうやら関東と関西では赤いきつねと緑のたぬきは味が違うとのことだ。そのことを知っていた大ちゃんが旅行で関西にやってきた時にコンビニで赤いきつねを買って、さぞやおいしかったと言っていた。もしかしたら、これを大ちゃんに送れば仲直りができるのではないだろうか。そんなことを思ったが、そんなに簡単な話ではないとも思った。そもそも、ものをあげるから許してくれだなんて考えは良くないだろう。だが、やらない理由はないな、とも思った。もしかしたらこれで話してくれるきっかけになるかもしれない。そう考えて私は赤いきつねを買って、大ちゃんの住所に送ってみた。それから数日経ったある日のことだった。

私が不意にスマホを見ると、大ちゃんから着信があった。私は大慌てで電話に出た。

「もしもし、大ちゃん?」

「はるちゃん、なんか久しぶりだね」

声のトーンが怒っている感じではない。もう怒っていた大ちゃんはいなくなったのだろうかと思っていると、大ちゃんが話し出した。

「赤いきつね、ありがとうね。久しぶりの関西の味で、すごく懐かしかったしすごく美味しかったよ」

まさかの大成功であった。私の目論見はどうやらうまくいったようだ。

「俺が赤いきつねが好きだって言ってたこと、覚えていてくれてありがとう。ものを送ってくれたから連絡した、みたいになるとかっこ悪いとは思ってたけど・・・そこまで俺のことを考えてくれたことの感謝を伝えたかったからさ」

「かっこ悪くないよ。私もこれが連絡のきっかけになってくれたら嬉しいなって思ったから、もので釣ったのは私が先になるね。私はかっこ悪いかな?」

「そんなことはないけど・・・」

無事仲直りができそうだ。いつか、この出来事が笑い話にできる日がくればいいな、なんて思っていると大ちゃんが喧嘩の時の

話をしだした。

「そもそも、はるちゃんが言ってたことはそんなにおかしなことじゃなかったのに、あんなことで怒るなんてどうかしてたよな。ごめんね?」

「いいの。少しのことでイライラしちゃうようなときは誰にだってあるから。私の方こそ、もっとちゃんと聞いてあげられたら良かったのにって思ってたよ、ごめんね?」

「そんな、謝らないで・・・。あ、そうだ。えっと、『そんなの気にしなくていいのに』」

喧嘩のきっかけとなった言葉を大ちゃんが流用してきた。二人で笑った。

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