カツラとスーツのプレゼント

みめい

第1話

今朝、会社に出社したら上司からカツラをプレゼントされました。


え?ちょっと待って!


私は必死に忘れたかった昨日の記憶を思い出して動揺しました。


昨日の朝に出社して、上司に呼ばれたのは初出勤3日目。

私はまだ転職して間もない新人さんですよ。

何も失敗をせずに仕事を黙々とこなして、これから頑張って働くアピールをする存在。


この世に生まれて25年、最初の職場は倒産したけれど、すぐに今の会社が見付かったしラッキーだと思っていた。

通勤的にも給料的にも仕事内容も。


この上司に呼び出される前までは。


「松井さん、貴方の髪の毛ボサボサね!」


酷いっ!

確かに私は酷いくせっ毛ですよ、雨の日なんか頭がピラミッド型になりますよ。

でもね、ヘアオイルを沢山振りかけて何とかなっているはず。はず!はず!


ボサボサではなくて超絶苦労して作った頑張った作品です、個性的と言ってくださいまし。

くせっ毛に悩む私を一瞬で切り捨てる上司に頭を下げるしかないけど。


「すみません、明日から気をつけます」


素直に謝る私って健気.......などと思っていたら無慈悲な言葉の弾丸に撃たれました。


「無理よ。貴方の髪質は直らないでしょ!」


お、おう。

だから顔でカバーしているんです。

まさか可愛い私に嫉妬してる?

何とか現実逃避を試みる健気な私。


「だからカツラを被りなさい」


「は?」


「明日私が持ってきてあげるから」



それが昨日の出来事。

まさか本気だったのですね?


「服も酷いから私のお下がりのスーツも持ってきたわ」


引きつり顔の私にグイグイと巨大な紙袋を押し付けてくる上司。


ホラーです、紙袋の中身を見るのが怖い!


「ありがとうございます」


頭を下げながら会社を辞めようか?なんて考えがよぎりました。



お母さん。

実家に帰っていいですか?


お母さん。

あなたの娘は入社4日目にして人生の岐路に立っています。


「さっそくカツラを被ってみて」


「はいー」


上司に逆らえない縦割り社会に絶望しながら紙袋の中を見てみました。


あれ?

カツラだ!


そういえばカツラ初体験です。

初めてのカツラ。


被ってみたいかも.......


化粧室まで上司に手を引っ張られ、カツラを被せて貰い鏡を見た瞬間びっくり!


「似合うわよ」


ニッコリ笑う上司の横にはお嬢様がいました。

いや、お嬢様のように見える私がいました。

美しい!

どこの令嬢様かと思うくらい。

肩より少し下まである黒髪、ふんわりウェーブ、パッツン前髪。

気品に溢れる雰囲気は今までの私じゃないわ。


鏡に近づいてよく見たらカツラだって丸わかりでしたけどねー!

悪くはないですよ、1m以上離れて見たら悪くは見えませんよ。

離れて見ればお嬢様。


みんな私の近くに来ないで!

カツラだって分かるから!



「スーツも着てごらんなさい」


「はいー」


ホラーは続くよ、どこまでも。

この上司が良い人なのか悪い人なのか分からない。

好意で言ってくれているの?


紙袋の中には白いスーツや黒いスーツやチェックのスーツなどなど。

何着入っているのか?

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