第5話
それからしばらくして、泣きに泣いて笑顔を取り戻した私は、
元気に日常を過ごし、家族はそんな私を見守ってくれた。
本当はその調子で社交界に戻り、新たな相手を見つけることも考えた。
でも私は、それよりもやってみたいことがあった。
「弟子にしてください!」
あの日、うどんを作って私のところにやってきて話を聞いてくれたメイドに
私は頭を下げてそう頼み込んでいた。
「お嬢様お顔をあげてください!そのようなことをされる必要は…」
「どうしても、うどん作れるようになりたいんです!」
「どうしてまた…」
「…私も…あなたみたいなうどんを作ってみたいの。
それで…その…できればうどん屋を開きたいの。
私みたいに落ち込んだ時に、誰かの心を温めて癒せるような…そんなお店を!」
商売の慣れてない小娘が店を出しても…成功するなんて思ってない。
うどんを打つのも、簡単じゃない…スキルを磨くのに時間がかかる。
下手をしたら婚期を逃すかもしれない。
それでもやりたい。
私は彼女の目をまっすぐ見つめると
「私の指導は厳しいですよ」
と折れてくれた。
「よろしくお願いいたします!」
こうして長い修行を続け、数年後。私はうどん屋を始めた。
家族には結婚するまでの間と条件はあったけれど、精一杯の後押しをしてくれた。
とは言っても、屋台を引いて売る出店スタイルだけど。
それでも十分だった。
屋台の名前は、あの日彼女が作ってくれた「きつねうどん」から名前を連想、
そして前世で助けられたうどんの名前が、「赤いきつね」のうどんだったから
それをそのままストレートに英語にした。
前世でも今世でもお世話になったこのうどんを、
この世界の、この街のみんなに食べて欲しい。
「さて、今日も元気にお店を開けますか。
今日もお客様を幸せにするぞ!」
そう意気込んで開店準備を始めた私。
その後ろを誰かがこう呟いた。
「赤いきつね…か…。
せっかくなら『緑のたぬき』とかもどこかにあったりして」
婚約破棄されたので、うどん屋を始めました ー異世界でもあの味をー つきがし ちの @snowoman
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