休日の味

あがつま ゆい

休日の味

 土曜日の午前5時30分。

 休みの日はなぜか決まっていつも7時にセットしたアラームが鳴る1時間以上も前に目が覚める。仕事のある平日は7時ぎりぎりになるまで寝ているのに……自分の事なのにこれだけは分からない。

 冷蔵庫の横にある袋めんやカップめんを置いてある場所からそれを取り出す。


「緑のたぬき」


 休日の朝食は決まってこれだ。




 身体の事を考え社会人になってからは平日の朝食はオートミール、昼は前日夜に仕込んだ自作の弁当、夕食も極力自炊で外食はまずしない。

 今の仕事では昼行灯ひるあんどんな会社員だからいつも定時退社で、夕食を自炊する時間も確保できている。

 その代わり、休日はカップめんや外食を食べてもいいという事にしている。これが美味いのだ。おそらく平日もカップめんが食えるのならとっくに飽きているはずだ。


 電気ケトルでお湯を沸かしカップに注ぐ……量は固まったそばがギリギリ浸る位の少な目だ。経験上これが一番うまく感じるお湯の量だ。

 それにしても電気ケトルは良い。緑のたぬきを食べるとき以外にも、コーヒーを飲む程度のちょっとした量のお湯を沸かすのにも便利で技術の進歩を感じる。




 お湯を入れた後は炊飯器から飯を少量よそう。

 緑のたぬきに飯なんて不自然かもしれないが、実家ではおでんみたいな練り物を飯と一緒に食べたし、お好み焼きみたいな粉ものにもご飯が付いたため不思議な事ではないのだが。


 お湯を入れてから2分、ちょっと早めに封を開ける。早めにフタを開けるのは3分待つと天ぷらが柔らかくなりすぎて箸でつかんでもボロボロになってしまうのだ。

 白い湯気ゆげがふわりと立つ……最近は寒くなってきたから湯気ゆげをみるだけでも余計にうまそうに見える。


 柔らかいもののはしで持てるくらいには芯が残っている天ぷらをつまみ、口に運ぶ。

 それとほぼ同時に飯を含めば何とも言えない美味が広がる。何度も食べてはいるが休日しか食べられないだけあって飽きることのない格別の味だ。




 先に食べ始めた天ぷらを飯と共に食いつくす頃には十分そばは食べごろになっている。はしでほぐしてそばをすすり、つゆも飲むと食べ慣れているのに飽きの来ない味が広がる。

 しょうゆの濃い出汁だしつゆが淡白なそばであるそばとからんで実に美味いのだが、飽きの来ない味になっているのが本当に不思議だ。


 まるで母親の手料理みたいに何度出されても一向に飽きないのと同じように感じる……と言ったら実家の母親に怒られるだろうか。

 休日になると無性にほしくなるので段ボールに入っている12パック入りを買い溜めしていて切らさないように常備している。




 そばをすすり、つゆを飲んでいるとあっという間になくなってしまう。代わりに温かいそばとつゆが腹の中に入り、満足感を与えてくれる。

 時刻は午前5時45分、とりあえず7時まで2度寝しよう。2度寝3度寝が出来るのは休日の大きな特権だ。平日じゃこうはいかない。


 さて、今日は何をしようか。

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