第4話 ロータリー

酔った御曹司をタクシーにぶち込んで家に帰らせた後、私は先輩に駅まで送ってもらった。電車で2駅先にある地元へ降り立つと、光の弱々しい街灯2〜3本に照らされた静かなロータリーが私を待ち受ける。

どうもこのロータリーとその周辺は苦手だ。不審者が出そうだし、あと昔からここには青白い人型の煙を想像してしまう。


『第六感みたいなやつかな』


先輩の言葉を思い出して背筋に寒いものを感じた私は恐怖を拭う為にコンビニでストロング系チューハイを購入し、飲みながら帰ることにした。林檎味のチューハイが喉を抜けるにつれ視界が眩み、謎の安心感が沸き起こってくる。

ロータリーを抜けチューハイが半分程まで減ってきた頃、


『生江ちゃーん』


突如背後から私の名前を呼ばれた。小さい子が友達を遊びに誘う時のような伸び方をした、野太い男性の声。

酔いも安心感も一気に失った私はその場に立ち竦んでしまった。声は徐々に近づくが身動きが取れない。そうしているうちに声はすぐ背後まで来て、肩を掴まれて後ろを向かされてしまった。そこにいたのは幼馴染だった。


「何してんだお前。あ、いいもん飲んでら。一口ちょーだい」


ヘラヘラと笑いながら私のストロング系チューハイを奪い取りゴクゴクと飲む幼馴染。

何だお前かよ。その場に崩れ落ち安心したのもつかの間、私は幼馴染も奴に奪われたチューハイもそのままに駆け出してしまった。

幼馴染は私をちゃん付けで呼ばないのだ。

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見えはしない むーこ @KuromutaHatsuro

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