第3話 焼け焦げた人
高校時代に憧れていた先輩と再会した。先輩は昔よりも大人っぽくなっていてほのかに香水の匂いがした。
行きつけの居酒屋で先輩と昔話をしていた時、学校の七不思議に関する話題になったところで私は居間の生首や勤め先の男女のイメージについて話してみた。先輩は寒そうに腕を擦りながら「第六感みたいなやつかな」と笑った。
それから先輩に勧められるがままバイスサワーを煽っていると、店に誰か入ってきた。全身がドロドロのケロイドに覆われ、所々黒く焼け焦げた人。
はっと目を見張った直後、焼け焦げた人と思ったものは年若い美青年へと姿を変えた。それも見覚えのある美青年。
「あーちょっと、その人だれー」
大きな目を丸くして、馬鹿にしたようなタメ口で声をかけてくる美青年─あの御曹司が近寄ってくるのに対し、私は「うるせーバカ」と暴言を吐いてやった。御曹司は気にする様子も見せず私の隣に座る。
「ちょっとパイセン、俺の独身街道に付き合ってくれるんじゃないの」
「聞いたことねえよ。ていうかなんでここ来たんだよタイミング悪いな」
「バイスサワー飲みに来たんだよっ。すみません、バイスサワー1つお願いします!」
いかにも育ちの良さそうな言葉遣いでバイスサワーを注文すると、御曹司は先輩に目を向け「ていうか誰ですか」と問うた。
「誰ですかじゃねーのよ失礼だろ」
「良いよ良いよ、俺この子の先輩」
失礼な御曹司に対し気さくに名乗る先輩の表情はどこか余裕というか、にやついて見える。
「僕はこの人の後輩です」
御曹司が名乗る。後輩だという自覚はあったらしい。
「僕は今のところ好きな人がおらず、また両親はお見合いの話を持ってくる程お節介でもありません。このままだと独身街道まっしぐらです。彼女にはこんな僕の独身仲間になってもらうつもりでいるんですが、貴方は彼女に対しどういうお考えですか?」
勝手に人を独身街道に巻き込もうというクソ迷惑な御曹司の野望を聞かされた先輩はハッハッハッと手を叩いて笑った。
「僕は君達が付き合えば良いと思ったんだけどなぁ!好きじゃないならしょうがないかぁ!ハッハッハッ!」
「貴方はいいんですか?」
「僕は愛する嫁さんがいるからダメだよぉ!」
御曹司が目を丸くして、それから恥ずかしそうに「なんだぁ」と笑った。私は「お前先輩が未婚だと思ってたのかよ」と鼻で笑った。
先輩の奢りで散々飲み食いした後(3000円コース)、店を出ると目の前を消防車がサイレンを響かせながら突っ切っていった。行き先はかなり近いようでビルの間から煙が上がっていた。
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