”時”限爆弾

高黄森哉

 時計の、子気味良い音と共に過ごす、午後の観覧車は優雅だ。これから訪れるであろう、時の破壊工作。眼下に這いまわる人混みに向けて、にやにやする。


 我は時の支配者なりや。なんて、気取ってみる。


 さて、始めようか。時計を覗く。チックタック、と時が遅くなる。腕時計を見つめている間は時が遅くなる気がした。今よりも遥かに、忙しなく働く人に平等に。

 段々と観覧車の速度が落ちる。しかし、慣性で体が重くなったり軽くなったりしない。観覧車が減速しているわけではないからだ。窓から見える道を走る車は、徐行する、カメのような速度で。


 俺は再び、時計をのぞき込む。


 ふと顔を上げると、小さな埃が落ちる。ふあふあと、不安定な軌道の乱降は、人生を思わせる。埃は虫だった。羽虫が飛ぶ、その羽が動く、葉脈のような構造が繊細なガラス細工を彷彿とさせる。つまり、カゲロウがその身体に、儚い一生を実らせていた。


 また時計を、見つめる。


 風防は、本当に少しだけ曇っていて、冷たく張りつめている。時針は相変わらず止まっている。分針は動き出したばかりだ。秒針がふれる。文字盤に造られた隙間から、透けて見える歯車の一つ一つがコマ送りのように回る。


 時計を見るといつの間にか、膝の上で時限爆弾に代わっている。これが爆発したら、いよいよ時が止まる。

 

 目の前全体が炸裂すると脳は防衛反応に身を任せ、思考が刻々と過去になる今よりも、ずっとずっと速くなる。破片が入刀すると、裂けた皮膚から、肉の地層が認められる。炎が形を変えながら皮膚を舐め、タンパク質を赤茶に変性させる。吹き飛ばされた白いビーンの脂肪が宙で泡を吹いて縮まっていく。筋組織がカンナで削られたかのようにめくり上がり、高温になった骨から白煙が出る。

 人々は、爆音が轟いて頭上を見る。すると、お日様のように明るい爆発の光が、観覧車の天辺で止まっているので驚く。一番面白い盛り上がるところ、これからあらんかぎりの膨張で鉄片をまき散らすところで、火の玉が剝製にされている。


 その中心で、男が観覧車に座っている。


 そうなのだ、もう下についてしまったので、俺はなお進み続ける、観覧車から降りなければならなかった。どうも知らないうちに、大分だいぶん時間が過ぎ去っていたらしい。

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”時”限爆弾 高黄森哉 @kamikawa2001

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