宴の後

 ウラシマが鯨のことを振り返っているうちに、宴はその華やかさをドンドンとましていった。最初は、数人の女が鼓の音に合わせてゆったりと舞っていた。それが今では、十二人に増え、鼓に加えて鈴や琴の音も鳴っている。魚の数も増え、鯛の朱色や鮃の黄色、その他南方のものらしき派手な色をしたものが宴の場を所狭しと泳ぎ回っていた。中でも、最後に現れたイワシは格別に目を引いた。数百匹はありそうな鰯が舞台の上でぐるぐると球状に泳ぎ回り、一塊となり、また別れ、またかたまる。その鰯たちの身体が光を反射し、銀色の装飾のごとくなってウラシマの目を楽しませた。


 宴がどのくらいの間続いていたかはウラシマには判然としない。竜宮では日が昇ることも沈むこともないのだ。ともかく、宴は鰯たちの演舞を最後に終わった。ウラシマは快い疲労感を感じていた。それを察したかのようにナギは

「ウラシマ様、宴はご存分に楽しまれましたでしょうか?そろそろお部屋にお戻りになられてはいかがでしょう?」

と問いかけた。

「ああ、こんなに面白きものを見たのは生まれてこの方初めてだ。しかし、少しばかり疲れてきたし、部屋に戻ろうかな」

そう応え、ナギの案内でウラシマはもとの居室に戻った。


 元の部屋に戻ったウラシマはナギにひとつたずねた。

「お前も魚の姿に変じたりできるのか?」

ナギはこともなげといった調子で応じた。

「もちろんでございます。今現在はウラシマ様のご案内を仰せつかっておりますから、人間の姿をしております」

「では、オトヒメ様はどうなのだ?」

「乙姫様でございますか……あの御方については私めにはとんとわかりませぬ。私のような下賤のものには計り知れぬ御方ゆえ……」

「そうか、いや、大丈夫だ」

そういって、ウラシマはナギと別れた。


 一人になったウラシマは、やはり母のことが気にかかった。しかし、昨晩の夢のことを思えば亀は確実に状況を伝えてくれているようだ。さらに、毎日十匹の魚があれば、元々より余裕のある暮らしもできよう。今はゆったりとこの歓迎を楽しみ、3日ほどで戻れば、それほど心配もかけまい。

 そう納得したウラシマは昨晩眠りについた寝床に入り、すぐに眠りに落ちた。

 今度は夢は見なかった。


 その後、ウラシマは今度はシケに起こされ、再び宴に招待された。二晩続けての宴にもかかわらず、やはり疲れは感じなかった。しかし、母のもとに帰らねばという思いは強まった。


 二度目の宴の帰りは亀が案内してくれた。そこで、

「明朝、俺は地上に帰ろうと思う。そろそろ母が心配になってきた。それに俺は十分に楽しませてもらった」

と伝えた。すると亀は

「もちろんでございます。ウラシマ様が帰りたいと思し召されたときがウラシマ様が帰るべきときでございます。ただ、その前に今一度乙姫様にご謁見の程をお願いいたします」

と応えた。ウラシマは再びオトヒメの前に立つことを思い、内心萎縮の念もあったがこれだけの歓待を受けてなんの挨拶もせずに帰るわけにもいくまいと思い承諾して、寝床についた。


 

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ウラシマ 淡 今日平 @Kyohei_Awai

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