第3話 王国の憂鬱

 ラクサ王国。嘗ては栄華を極め,周辺諸国へ幅を利かせる事が出来るほどの軍事力と経済力を持っていたこの国は,度重なる王国内の貴族の抗争の果てに荒れ果てていた。先代の王が亡くなり,今の王になった途端に盤石であった支持基盤に罅が入り王都では日々派閥同士の暗闘が繰り広げられている。唯一の救いは何処の派閥も支配後の事を考えているのか情報統制だけは協力して行っており,市民にこの状況は把握されていない。不景気であると認識されているのだ。

 そんなラクサ王国の王都に存在する中央王国軍の司令部では疲れ切った表情の中年男性が年季の感じる机に地図を広げていた。

「諸侯連合が最近国境に軍を集めていると噂になっているが…我が軍の状態は?」

「はっ,直ぐにでも国境へ動かすことが出来るのは一個大隊のみとなります。一個師団も動かせないこともありませんが,装備の充足率は余りにも低く用意出来たとしても諸侯連合の軍に対しては烏合の衆となることは明確です」

 中年男性の言葉に返事をした青年はそこまで言うと,中年男性の方向を見て言った。

「既に中央王国軍などと言っている我々だけが唯一の王国軍となってしまっています。屋台骨の折れた王国の辿る未来は戦乱の世です。もう,打つ手は無いと考えます。諦めませんか,アレックス将軍閣下」

「いや,それは出来ない。それだけは絶対に出来ないんだ。陛下ではなく貴族が幅を利かせる今の状況でも国民の盾は我々王国軍だ。それだけは,譲れない」

 中年男性…アレックスは,そういうと机の引き出しを開け一枚の紙を取り出した。『王国に集え若き勇士たちよ』と勇ましく書かれた王国軍の求人だ。既に王国軍の方面軍は解体され所属していた将軍や騎士は様々な貴族が我先にと奪い合い,もはや存在しない。予算も殆どが貴族たちの元に吸われてしまい,過去には花形誰もが憧れる中央王国軍も今では立派な金無し軍である。

 その実情を国民が知ることは無いが,雰囲気や噂が広まっているのか全く応募は来ない。だからと言って大見得を切ろうにも無い袖は振れない。悲しいものである。

「私が子供の頃は王国軍の騎士になるのが夢だと語っていたが…。こうまで落ちぶれると笑えてくるものだな」

「…」

 青年が答えに困っているのを見てアレックスは苦笑いをした。彼とてさっさとこんな泥船からは降りたいだろう。アレックス自身もああ言ったが,もう少し若く責任ある役職に就いていなければ早々に退職したかもしれないと仄かに思っていた。

 アレックスは徐に立ち上がり,外に置いてある酔狂が入隊してくるかもしれない様に置いておいた木剣等を片付けると言って外に出た。後ろから自分が代わりにやると声を上げる青年に部屋の掃除を頼みながらゆっくりとした歩調で外に出るのだった。

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