第2話 試験
中年の男,アレックスと名乗った兵士は今回の監督官らしい。試験は面接とちょっとの実技らしい。後は,入ってから鍛えるとヴィンハイムに説明した。面接会場は,修練場に併設される応接室の様な場所だった。机を挟んでヴィンハイムとアレックスは向かい合い,面接が始まった。
「さて,まず何故王国軍に志願したのかな?」
「………それ以外に選択肢が無いからです」
ヴィンハイムはそう答えた。なにか,含みがあるような言い方だが本人は何も考えていない。なんせ,安定した職業に就きたいから来ただけだからだ。崇高な考えも,使命感もないただ安定した収入が欲しいという俗物的考えから来ただけ。馬鹿正直に言う訳が無い。
「成程,君は王国軍に入り何を目指したい?」
「誰も飢えない平和を目指したいと考えます」
飢えたくはない。それはヴィンハイムの本音だった。凶作の時は,少しの食料を水でふやかして量を誤魔化し,飢えを忍んだ。王都の様に,物流の集積地ではない田舎であるからこそ,ヴィンハイムは飢えだけは避けたかった。そして,彼の持論ではあるが飢えていなければ人は争わないと思っていたのがこの発言だった。
「………まぁ,良いだろう。では,簡単な実技試験だ。表に出てくれ」
アレックスに促されるままにヴィンハイムは外に出た。アレックス曰く粗方終わったとはいえ,余りにも人が居なかったが,ヴィンハイムは緊張からそこまで考えがいかず特に気にすることもなかった。
アレックスが,壁にかけ置かれている木槍や木剣などを持ちながらヴィンハイムに近づいてきた。
「なにか得意な武器はあるか?特殊なもの以外であれば,基本的には揃っているぞ」
「じゃあ,槍をお願いします。後,短剣も」
「短剣は流石にないな,ショートソードでいいか?」
「それでも大丈夫です」
ヴィンハイムはうなずき,アレックスから槍と短剣の代わりであるショートソードを受け取った。彼は暫く槍とショートソードの感触を確かめると,右手に槍を左手にはショートソードを持った独特な構えをした。それに応じるかのように,アレックスもロングソードを構える。
見た目だけは何処か整っているように見えるが,ただ適当に構えただけである。槍は剣の間合いに入らずに使えるのでは?と考えたから,短剣を所望したのはもし近づかれたら抵抗するようである。まぁ,そこまで詰められているのならもう死んだも同じだろう。
「では始めっ!」
「っ!」
アレックスの言葉と同時にヴィンハイムは動き出した。しかし,思いの外体は強張っていたのか躓き,如何にか体勢を戻そうと動いたときに左手に握られていたショートソードがすっぽ抜けてしまった。
ヴィンハイムの手から抜けたショートソードはどういう訳か地面すれすれを飛び突然上にあがり,アレックスの股間へ飛んで行った。それと同時に未だ姿勢が覚束ないヴィンハイムは勢いで立ち上がろうとして右手を前に出す。手に持ってる槍もそれに合わせてアレックスへ向けて突き出される。
「ぬおっ……っ!?!?!?!?!?!?!?」
アレックスは突然突き出された槍をロングソードを使って逸らしたが,そちらに気を取られてしまったがために下から飛んできているショートソードへの反応が遅れてしまった。ショートソードは見事にアレックスの股間に吸い込まれるように当たり,アレックスは突然の衝撃に目を白黒させながらその場で倒れるのだった。
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