(色々と)悲しき英雄

人類種の点滴

第1話 プロローグ

 かつて大陸にその名を轟かせた英雄ヴィンハイム。彼の一生は波乱に満ちていたとされ,彼の軌跡は大陸各所で発見される。

 彼を英雄たらしめる逸話は,『一人で砦を破壊した』『相手に触れることなく倒すことが出来る』『どれだけ戦いに出ても無傷で返ってくる』等々行く先々で様々な逸話を残し,その逸話に関連する建造物や痕跡がある事や,彼の生まれである王国でも彼についての逸話が王宮の書庫より発見され,逸話の信ぴょう性を高めた。

 書庫より発見された書物によると,ヴィンハイムはある日ふらりと城の前に現れ,英雄としての力を示したのである。


~~~


「迷ってしまった…」


 少年ヴィンハイムは途方に暮れていた。田舎から出稼ぎに王国の首都に来たものの,入り組んだ街並みに翻弄され自分の現在地を見失っていた。村は畑の合間に家々が立ち並んでいたのに対して,この首都は計画性もかけらもなくまるで植物の根の様にそこら中に道があり,建物が存在する。


「城も何も見えないし…,人に聞こうにも最近物取りが居るって噂だし…」


 幼年期を村で過ごし,顔見知りの居ない首都に来たヴィンハイムは物取りが横行しているという噂も相まって初見の人に声をかけることが出来ず,八方ふさがりになっていた。

 しかし,時は刻々と過ぎ去ってゆく。今日泊まる宿すら決めていないヴィンハイムはええいままよと直感を頼りに,進み始めた。素直に,憲兵や警邏している兵士に事情を話せばいいものを,初めての場所ということあるのか完全に失念していたヴィンハイムであった。

 暫くして,行き当たりばったりに歩いていたヴィンハイムは如何にか大通りに出ることが出来た。出店の横を素通りしながらお上りさん状態であたりをキョロキョロと見まわしているとある場所で目線が止まった。目線の先は掲示板。そこには,高そうな羊皮紙に『王国に集え若き勇士たちよ』と書かれていた。都合よく,今日がその募集日だ。出稼ぎにきて,日雇いよりは少なくとも安定してそうな職業。特に考えずにヴィンハイムは飛びつき,募集場所へと向かうのだった。


「安定した職業…仕送りの仕方とか知らないけど。就職できればどうにかなるだろ!」


 この男,控えめに言ってバカである。楽観的というか,即物的なところがあり考えるより先に行動してしまい,結果痛い目を見るのが普段の流れだったりする。

 そんなヴィンハイムは今回は迷わず募集場所。王国の修練場に到着することが出来た。兵士という,戦時では真っ先に死ぬ可能性のある職業だからなのか修練場には全くといって良いほど人はいなかった。居たのは,ポツンと寂しそうに佇む鎧を着た中年の男だけだった。


「あの~?掲示板を見て来たんですけど,もう終わってたりしますか?」

「ん?あ,いや,大丈夫だ。君が来る前に粗方面談が終わったのさ」


 中年の男は疲れたようにそう言いながら,何故かヴィンハイムが声をかけてから一度も目を離さなかった。

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