第39話  到着とホテル



 その日、北京にある官邸ではある騒動が起こっていた。



「どういうことだ!?」


「ご、御子息が……行方不明となりました……」


「監視の者どもはどうした!?」


「皆、気絶しております」


梓塁ズールイの奴……やりやがったな…。

 息子だからと大目に見てきたというのに…!」


「いかがいたしますか?」


「探せ!!!あいつは、我が国の重要な戦力だ!

 何せ、あのユニークスキル保持者なのだからな。

 生きてさえいれば良い。連れて来い!」


「御意」



 ちん主席は、怒りを抑えられないでいた。

 唯一の息子である梓塁ズールイの逃亡。

 しかし、今の陳主席に取って梓塁ズールイは、ただの息子ではない。

 中国の軍事を揺るがすほどの強大な力を持った人物でもあるのだ。



十二将じゅうにしょう



 陳主席の一言で、

 部屋には十二人の姿が現れた。

 一人一人が戦闘の猛者であり、四つ以上のスキルを持つ者である。

 協会の基準で例えるなら、ランク1の化け物たちと同等か、それ以上の実力だ。



「梓塁が行くであろう場所の見当はついているか?」



 十二将の内、唯一お面をつけている者が発言をする。



「はいです。ワシのスキル『直感』がいうには、

 西に移動中のようです」


「西か…。確か、イギリスでは現在…」


「はいです。

 忌々しい協会の者たちが、ユニークスキル所持者の試験を行うとか」


「なるほど…。この一件、お前に預けるぞ。十二将のリーダーであるお前に」


「御意。必ず御子息を連れ戻して見せましょう」



 答えたのは、十二将で最も小柄な存在。

 彼の名前は、ワン

 十二将のリーダーにして、

 中国にいるもう一人のユニークスキル所持者である。



 ◆◆◆



 イギリス ヒースロー国際空港



「うぅーー!よく寝た」



 12時間のフライトは、かなり長く感じた。

 映画を3本観て、後半はひたすらに眠った。

 だが、腰が痛かったりはしない。

 これがファーストクラスの力なのだろうか。



「あぁ…九条さん…なんでそんな元気なんですか…」



 顔色が悪い鏡花。

 海外慣れしてそうなのに、

 彼女には飛行機が弱いという弱点があった。

 機内で二度もゲロった時はさすがに焦った。



「どこかで休むか?」


「あ、大丈夫です…。迎えも来たようですし」



 そう言われて、振り向く。

 そこには黒いスーツを着たダンディーなおじさん。

 うわぁ…かっこいい。イギリス人だろうか…。



「クジョーさん、初めまして。

 パートナーをさせていただきます、トーマスです」



 うわっ…めちゃめちゃ日本語流暢。

 ビビったわ!



「あ、初めまして。九条カイトです。

 あの…パートナーってなんですか?」


「イギリスでの案内人兼、ボディーガードです。

 まぁ、ユニークスキルをお持ちの方にボディーガードは必要ないでしょうが、試験が始まるまでお供させていただく者です」


「ほぉ、なるほど。

 ん?じゃあ鏡花はなんでここにいるんだ?」


「えっ……」


「Ms.キョウカ。結局来たのですね。

 何やら、ついて行きたいと駄々をこねたとか?」


「……会長に頼まれたのではなかったのか?」



 鏡花の顔色が余計悪くなる。

 なるほど、無理矢理ついて来たわけか。

 気まずそうにする鏡花を横目に、俺はトーマスさんにこう言った。



「それじゃあ、さっさと行きますか」


「はい。こちらです」


「あ、あのぉ!置いていかないでくださいっ!!」



 目的地は、ロンドンにある探索者協会。

 車の窓から外に目を向けると、

 遠くに高く聳え立つ巨大な塔見えた。

 あれが…ロンドンダンジョン。

 難易度は日本ほどではないが、日本の国土の広さが世界順位で上から61番目なのに対して、イギリスは78番目。

 この差がどれほどあるのか…。



「クジョーさん、海外は初めてですか?」



 再び聞かれるこの質問。

 俺ってそんなソワソワしているように見えるのか?



「そ、そうです」


「では、海外のダンジョンを見るのは初めてですか?」


「はい。日本のと随分とデザインが違うのに驚いています」


「そうなんです。日本のダンジョンは『鬼』をモチーフにしているだとか。

 ここイギリスでは『ドラゴン』がモチーフなのです」


「へぇー!それは興味深いですね」



 ドラゴンか…。

 そんなのが実在したら、普通に怖いんだけど…。

 そんな会話をトーマスとしながら、俺たちはようやく協会にたどり着いた。

 どこの国も協会はダンジョンの近くにあり、

 ここロンドンの協会は、かの有名なビッグ・ベンの近くに建てられていた。

 建物自体は、ロンドンの街並みと同化するようにデザインされている。



 いざ、建物の中へと足を踏み入れる。

 中央には楕円型のカウンターに、視界の左右には酒場?があった。

 協会の中は随分と賑わっており、

 日本の協会とは全く違う雰囲気を醸し出していた。



「ようこそ、イギリス支部へ。

 本日は、イギリスでの探索者登録だけしていただきます。

 長旅でお疲れでしょうから、夕方からは当協会自慢の、

『グランド・マスターズホテル』に宿泊していただきます」



「グランド・マスターズホテル!?!?」



 反応したのは、後ろについて来ていた鏡花だ。

 そんなに有名なホテルなのだろうか。



「そんな有名なのか?」


「有名どころじゃないですよ!

 イギリスの探索者協会が主導して立ち上げた、

 1泊23,500ドル(約280万円)の超高級ホテルですよ!

 わぁ…楽しみだな…」


「Ms.キョウカは、自分でホテルを押さえてください」


「え……」


「え、じゃないですよ。

 協会の方であなたの面倒は見れないので、

 全て自己責任でお願いします」


「えぇぇええええええええ!!!!!」



 うーん、なんだろ。

 俺の中での鏡花の評価がどんどん下がっている気がする。

 こいつ一応、日本で有名なアイドルなんだよな…。

 こういう所を見ると、ついつい忘れてしまう。



 俺は手早く手続きを終わらせた。

 手続きとは言っても、簡単なものだった。

 ただカウンターに探索者カードを渡して、

 登録を済ませれば終了である。

 登録というのは、イギリスのダンジョンに入る際に、

 イギリス探索者協会の認証が必要だからである。

 その認証がなければ、海外の者は自由にダンジョンへの出入りができない。

 これも全て、犯罪対策のためなのだそうだ。



 続いて、俺はグランド・マスターズホテルに来ていた。

 鏡花が言っていた通り、かなり高級そうなホテルである。

 ホテルに入った瞬間、頭上を見上げた。

 人生でこれほど大きなシャンデリアを見たことがあるだろうか。

 フロアは全て大理石のような素材で、

 従業員の一人一人が、物凄く丁寧な対応をしてくれる。



「お待ちしておりました。九条様」



 おまけにめっちゃ日本語。

 ここ、イギリスだよな!?



「お部屋は、最上階の15階になります。

 鍵は九条様がお持ちの探索者カードをかざしていただければ、解錠します。

 何か必要でしたら、いつでもおっしゃってください。

 では、いってらっしゃいませ」



 チーン



 最上階でエレベーターを降りた。

 それと同時に、ある違和感を覚えた。

 なんだ、この感覚……。

 俺は無意識のうちに『超感覚』を発動していたようだ。



(旦那、このフロアにいる奴ら、結構な化け物だぜ)



 ロキも感じていた。

 なるほど…トーマスが言っていたのは、このことか。



『試験を受ける他のユニークスキル所持者も、

 九条さんと同じホテルに泊まる予定です。

 起きないとは思いますが、

 くれぐれも問題を起こさないようにお願いします』



 ピッ



 俺は自分の部屋に入り、ベッドに寝転んだ。



 明日からランク0の試験が始まる。

 俺以外にもいるというユニークスキル保持者。

 一体どれほどのものか......楽しみだ。



 そう思って、ステータスを開く。



 ――――――


【名前】九条 カイト 

【レベル】 38/100


【H P】 3600/3600

【M P】 4800/4800

【攻撃力】 1800

【防御力】 1900


【スキル】


 『オーヴァーロード(Lv.3)』『剣心』『血液操作』『超感覚』


【召喚可能】 


 ■ザック・エルメローイ(剣聖)

 ■サラ・ドラキュネル(夜ノ王)

 ■ロキ・エルファドーラ(永炎帝)


 ――――――



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【ロード&マスター】〜元有名ゲームクリエイターはダンジョンを無双する〜 荒舟 @012430

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