第38話 空港と秘書

 


 ———首相官邸、大会議室



「この度はお集まりいただきありがとうございます」



 田中総理の一言で会議は始まった。

 そこに集まったのは、日本国の政治を担う面々。



「急遽集まってもらった訳は、私が口にするまでもないでしょう。

 皆さんも知っての通り、我ら日本国のダンジョンが攻略されたことについてです」



 その言葉を聞いた政治家たちは、二種類の反応を見せた。

 片方は、日本の崩壊を未然に防げたことに歓喜する人々。

 そしてもう片方は、マナエネルギーや、ダンジョンから取れる資源を無くしたことに悲哀する人々。



「しかし、一体どのような者がダンジョンを攻略したのですか?」


「攻略の最有力候補の才波炎は逮捕されましたし、まさか外国の者ですか!?」


「そうなれば、国際問題にも———」


「———皆さん、落ち着いてください」



 田中総理の一言で、場は静まり返った。



「マナエネルギーは、確かに私たちの生活を豊かにしました。

 しかし、そこには日本の崩壊という危険も潜んでいるのです。

 それを未然に防いでくれた者にまずは感謝するのが、私たち政治家の義務です。

 また、今回ダンジョンを攻略した者の素性は限られた者だけが知る情報です。

 しかし、近いうちに世間に素性も知れ渡るでしょう」



 九条がダンジョンを攻略した情報は、

 探索者協会会長含め、田中総理、副総理の3名のみが知るもの。

 また、ランク0という新たなランクはまだ世界に発表されていない。

 それは極秘事項であり、これもまた会長、総理、副総理、

 そして、会長の秘書である西園寺鏡花さいおんじ きょうかのみが知る情報である。




 ◆ ◆ ◆




『———東京ダンジョンが攻略され、塔が消滅してから1週間が経ちました。一体どのような人物がこの———…』



 テレビで流れている報道を耳にしながら、

 俺は朝食を取っていた。

 焼きたての食パン、スクランブルエッグ、カリカリベーコン。

 それと、左手にはドリップしたばかりのコーヒー。

 以上が本日のメニューである。



「……ねむぃ……」



 俺の横にはムニャムニャしながら、

 パンにかじり付いているサラの姿。

 目の前には相変わらずハンバーガーを頬張るロキと、

 優雅にコーヒーを口にするザック。

 ってか、何でこいつら普通に出てきてるんだ...。



「それで旦那、この先どうするんだ?」


「あれ?言ってなかったっけ?明日にはイギリスに行く予定だ」


「イギリス?なんでだ?」


「なんか探索者のランクアップ試験を行うとかで、

 世界中のユニークスキル所持者が招待されるんだって」


「へぇー!じゃああれに乗るのか?飛行機ってやつに」


「そうだな」



 ロキは空を飛べる飛行機に興奮していた。

 まぁ、ロード&マスターの中に飛行機なんてなかったしな。



「言っておくが、お前らは表に出てこれないぞ」


「な、な、なぜだ!?」


「だって、国籍ないじゃん。それに、イギリスで行う試験でもお前らは出さないつもりだ」


「それが得策です。主の能力を無闇に見せる必要はないかと」



 それ以外にも理由はある。

 正直な話、俺一人だけだったら東京ダンジョンを攻略することはできなかった。

 だからこそ、イギリスでの試験は俺一人で受けたい。

 今の実力がどれほどか試してみたい。



『次のニュースです。

 国内外で流行している”眠り病”についてです。

 日本での新規感染者は、減少している傾向にありますが、

 依然国外では新規感染者が増え続けています———』



 最近よく聞くニュースである。

 何やら、突然昏睡状態になって、

 今まで目覚めた者はいないのだそうだ。

 新型の感染病か、ウイルスか、何が原因かはわかっていないけど、

 とりあえず手洗いうがいを徹底しようと思った。



 ◆ ◆ ◆



 翌日、成田空港



「おはようございます!九条さん」



 そこには、満面の笑顔を浮かべる西園寺鏡花の姿。

 彼女の横には巨大なスーツケースが一つ。



「えっと、西園寺さん…なんでここにいるんですか?」


「会長よりお供するように言われたので!それに、私英語話せるので通訳として参りました!」


「俺、英語は話せますよ…?」


「……もうチケット取っちゃいました。てへっ」



 チケットをペラペラとさせながら、

 ウィンクをして俺を見る西園寺。

 ……これは反則だ。

 せっかくの一人旅だと思ったのに、

 そんな表情をされたら、うむ。

 まぁ、仕方ないよな。会長の命令ならば。



「い、行きますか…」


「はい!」



 何故か楽しそうな西園寺。

 そういえば、今ままで彼女は才波炎へのスパイとして活動してたから、あまり関わりがなかったけど。

 初見はクールなイメージだったのに、

 なんか…随分と雰囲気が変わったような気がする。

 こっちが素なのかな。



(おぉ!旦那にもついに春がきたか!随分な別嬪さんだな)


(別にそういうんじゃねぇからな)


(またまた、旦那〜)



 ロキが念話でうるさいくらいに話しかけてくる。

 飛行機に乗れないことを根に持っているのだろうか…。



「九条さん、海外は初めてですか?」


「え、そうです。よく分かりましたね」


「なんとなくわかるんです。空港に入ってきてからずっとソワソワしていたので」


「へぇ、わかるものなんですね」



 そんなたわいもない話をして、

 俺たちは空港のゲートへとたどり着いた。

 そういえば、西園寺って俺のスキルについて知ってるよな。

 俺にはよくわかっていないんだけど、

 ユニークスキルって実際何なのだろうか?

 ちょっと聞いてみるか。



「西園寺さん」


「……」


「えっと…なんでそんな嫌そうな顔をするんですか?」


「ずっと気になってたんですけど、私23歳です!

 九条さんより年下です!ちなみに独身です!

 だから、敬語はやめてください!

 それに「西園寺さん」は固すぎです!

 下の名前で呼ぶか、苗字を呼び捨てにしてください!」



 物凄い勢いである。

 ってか、独身かどうかなんて聞いてないし…。

 まぁ、これからイギリスでもお世話になるだろうし、

 ずっと固いままってわけにもいかないよな…。



「じ、じゃあ、鏡花…さん?」


「鏡花で大丈夫です」


「き、鏡花…」


「はい、何でしょう」



 ヤベェ…。調子狂う。



「ユニークスキルって結局どういったものなんだ?

 あなたはユニークスキル所持者ですって言われてもピンとこないんだよね」


「そうですね。簡単に言えば、

 他者には発現しないその人だけの能力です。

 ユニークスキルの特徴として、

 ステータスの成長がかなり遅かったり、

 そもそもステータスの数値が一般人より低かったりするみたいです。

 しかし、その分九条さんのようにレベルが20や30でランク1の者を圧倒できる力があるみたいです」


「へぇー…って、まさか俺と才波炎の戦いを見てたの?」


「いやー、残念ながらリアルタイムで見ることはできなかったんですけど、

 会長からビデオを拝借して、何度も再生してしまいました!」


「…そ、そうか…」



 何だろう…。

 おそらくこれが西園寺鏡花の素なんだろうな。

 最初に会った時と比べたら、物凄いギャップだ…。



(おいおい、旦那。見惚れてるんじゃねぇよ)


(お前は…少し黙っていてくれ...)



「そろそろ時間ですね!行きましょう九条さん」


「うん」



 こうして俺は無事に日本から飛び立った。

 ちなみに俺の隣の席には、鏡花がいた。

 チケットは会長からもらったが、これ絶対事前に2人分で予約してるだろ!

 それに、ファーストクラス!!

 色々ツッコミどころはあったが、

 心地のいい空の旅だった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る