題未定

春野 あじさい

プロローグ

 朦朧とする意識。


 打ち上げ花火が消えるように、刹那に、でも少しずつ暗くなる視界。

 途端それは海の遥か下、日の光も通さぬ深海を沈んでいくような。空の遥か上、全てが遠い広大な宇宙に飛ばされたような。


そんな感覚の中心にいたのは、1人の少女と、1人の男性だった。


 少女は嬉しい時も悲しい時も、どんな時でも男性と一緒だったし、また、少女が目をキラキラ輝かせ、ダンスを踊るように饒舌に話している時も、こぼれる涙と嗚咽から静かに言葉を探しながら話している時も、男性は隣に寄り添って聞いてあげていた。


 少女が男性の腕に自分の腕を絡ませる。

 一緒にテレビを見ていても、公園で遊んでいても、並んで歩いていてもそうしてくる。

 男性が少し困った顔をするが、少女はこうするのが1番落ち着くんだと言って離さない。男性はそのまま少女を持ち上げてお姫様抱っこをし、意地悪な顔を浮かべて少女を揺さぶる。


 そこにあったのは、天からすればほんの一粒の砂のような、愛で、幸せだった。

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題未定 春野 あじさい @keisuke5108

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