第3話 勇者に迫る危機

病室に入ると萌音は寝込んでいた。


「大丈夫?」


返事はなかった。


「おい、返事をしろ」


「ただ寝てるだけだよ」


後ろを見ると翔太が立っていた。

バン

翔太は僕の顔を殴ってきた。


「俺の彼女に手を出すなよ」


「今まで友達だったのに…」


「俺は萌音と一生一緒に生きていく。

自分は昔からずっと萌音のことが好きだった。

あの日、

お前の気持ちを聞いてびっくりしたけど、

お前なんか到底高嶺の花には近づけない」


何も言い返せなかった。


「主人公になれたからって調子乗るなよ。

俺の恋人だぞ。出て行け」


「すいません」


僕は悔しい気持ちだけを残しながら、

家に帰った。

もう萌音のことは忘れよう。

ラインや萌音との写真を全て消した。

萌音は翔太のものなんだ。

次の日、いよいよクライマックスの撮影に入った。


「よーーいスタート」





僕が向かった先はダークタワーと呼ばれる

狼のすみかだった。

全速力でダークタワーを駆け上った。

その途中、大量の小さい狼にあった。


『どうしたら良いんだ』


気がつくと周りを囲まれていた。

勇者になって魂を貰ったとはいえ、

本当に強いのか?

何が出来るかは分からなかった。

試しに剣を振ってみることにした。

ブン


『うわーー』


周りの狼は一瞬で倒れた。

これが僕の力なのか。これならいけるぞ。

屋上を目指して先を進んだ。

あっという間に屋上に着いた。


『おい、萌音はどこだ?』


『ここだよ』


狼の大きさは桁違いだった。

人の10倍はあった。

その狼が指さす方に萌音がいた。

萌音は倒れていた。


『まさか、魂を食べたのか?』


『とても美味しかったよ』


魂を取られたものは記憶を失う。

この言葉が蘇る。

僕は全力で剣を振った。

しかし、倒れなかった。


『そんなんで倒せるはずねぇだろ。

ダークテール』


狼は尻尾を振りまわし、

その風圧で倒れてしまった。


『まだ、まだだ』


反撃をしようとしたその時、

勇者の格好が消えていった。

剣も無くなってしまった。


『どうして?何で切れたの?』


『ガハガハ。魂と心は繋がっていて

心が弱ると魂も弱くなる。

そのせいで魔法が解けたんだろ。

まあ俺には勝てないけどな』


『くそ。どうしたらいいんだ』


まずは強気に立ち向かわないといけない。

心を落ち着かせて。大丈夫だ。大丈夫だ。

あんなやつ怖くない。

僕は立ち上がった。


『おい、狼。取引をしようじゃないか?』


『取引って何だよ?』


『僕の魂と萌音を交換してくれ』


『自己犠牲をするとは。ガハガハ。

なかなかなものだ。

ただお前の魂なんて……』


僕は萌音を守るんだ。

僕は萌音を愛してるから。

その時、僕の体が光りはじめた。


『いったいこれは何だ?』


『こんな大きな魂を見たことがない……

良いだろ。モネは返してやろう。ほら』


萌音をおんぶして船まで行かせた。

船には鳩がいた。


『萌音をよろしく頼む』


『わかりました。あなたは?』


『僕もすぐに行くから』


『分かりました』


萌音は無事帰ることができた。

僕は再び狼の元に戻った。


『さあ、ここからがショータイムだ』


『良いだろ。僕の魂を食べるが良い』


『ああ。いただくぜ』


急に意識が無くなっていた。

気がつくと教室にいた。


『ここはどこ?僕は誰なんだ?』


僕は……。

起きあがろうとしても起き上がれなかった。


『もうここで死ぬのかな』





不安が横切った。


「カッーート。代役ナイス」


萌音がいないため、代役が入った。

代役は演技も上手かった。

でも、僕は楽しくなかった。

萌音がいないと……。


「おーい。元気出せよ」


空が肩を叩いてくれた。


「うん」


「よし。海に行こうぜ」


空に連れられて海に行くことになった。

次の日、空と合流して電車に

乗ろうとしたが、

電車を間違えてしまった。

着いたのはあの時と同じ都会だった。


「あれ、海じゃないな」


空は残念そうな顔をしていた。

あの日の記憶が蘇る。

何度も削除しても蘇ってくる。

もう忘れたい。もう萌音とは………。

忘れようと思っても忘れることができない。

それが恋なのかもしれない。


「まあいいか。思いっきり遊ぼうぜ」


「う……ん」


そして、2時間はずっと遊びまくった。

ボウリングやカラオケなどに行った。

外は炎天下でとても暑かった。


「ちょっとかき氷食べに行こうぜ」


『ねえ、かき氷が食べたい』


また、あの時の言葉が蘇る。


「嫌だ」


「何でだよ。そんなこと言わずに」


「ここから歩いて30分かかるよ」


「良いよ。行こうぜ」


僕たちはあの日と同じように

かき氷屋へ向かった。

今回はちゃんと開いていた。


「かき氷2つ……いや3つお願いします」


「何で3つも頼んだんだよ!

俺とお前2つでいいだろ?」


「隣にもう1人いるよ」


僕には萌音が隣にいるように見えた。

翔太。ごめんね。やっぱり諦めれない。

かき氷が届いた。


「このかき氷めっちゃ美味しいな」


「う、うん」


プルルルプルルル

どこからか電話がなった。

周りを見渡しても人はいなかった。


「お前じゃないか?」


カバンの中を見るとスマホが振動していた。

電話の相手は萌音からだった。

僕がカバンの中にしまおうとした時、

空が強引に奪って出てしまった。


「もしもし。翔太だけど、

萌音がお前と電話したいらしいよ」


何で僕に?

僕はドキドキしながら電話に出た。


「も、もしもし」


「もしもし。健くん?

さっきは私の彼氏がごめんね」


「いや。良いよ」


「それより、

ラストシーンを撮りたいんだけど

今から良い?」


「今から?」


「うん」


「何で?」


「明日、手術をするんだ。

文化祭当日も手術を

しないといけなくて……。

今日しかないんだよ」


その声は泣いているように見えた。

でも、僕には役をやり切る自信が無かった。

どうせ僕は初めから

主人公でも無かったんだ。

映画を撮ると決まり、役を決める日に僕は休んでしまった。次の日、

学校に行くと主人公の下に

僕の名前があった。

無理だよ。出来ないよ。

そうみんなに伝えたが、

みんな主人公をやろうとはしなかった。

すると、空が近づいてきて、


「ヒロインはお前の好きな萌音だぞ」


そう言われ、やる気を出したが、

結局ダメだった。

萌音には彼氏がいる。

それも翔太という高嶺の花が。

それを知った以上、やる意味が無い。

僕が断ろうとした時、

空がまたスマホを取って


「すぐに行かせます」


とだけ言い、僕の手を引っ張っていった。


「何でだよ。離せよ。

僕はもうしたくないんだ」


「お前、そんなんで良いのか?

まだ気持ちも伝えて無いくせに」

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