第4話 高嶺の花になるために

病院に着くと

ラストシーンを撮ることになった。

ラストシーンは萌音も

健も死ぬというバッドエンドだ。

最後に主人公が萌音の手を握り泣きまくる。

でも、僕は俳優じゃない以上、

泣くことは出来なかった。

いざ、

始まるとテイク25まで行ってしまった。


「お前、どうしたんだよ!

涙を流すだけだぞ」


と監督は言うが、

それが簡単に出来たら苦労しない。


「一旦休憩しよう」


と空が言ったため、1時間、

休憩することにした。

みんな、店に行って食べ物を

食べたりしていたが、

自分は萌音のところにいた。


「もう無理かもしれない」


「明日、手術なの。成功する確率は30%。

先生は成功するって言ってるけど……。

私、毎日不安なの。

死んだらどうしようって。

ここまで映画を撮ってきたのに、

最後だけ撮れないなんて、絶対後悔する。

そう思って健くんを読んだんだ」


萌音が死ぬ?そんなことを考えたことも

無かった。

死んだら僕は何をすれば良いの?

好きな人を失うってどんな感じなの?


「ごめん……。僕は………」


その目から涙がこぼれた。


「出るじゃん。涙」


萌音に想いを伝えないと。


「よーーいスタート」


「カッーート」


ラストシーンはバッドエンドで

終わるはずだったのに

ハッピーエンドに変わってしまった。

そして、文化祭当日。

僕は学校を休んだ。

萌音と過ごしたい。

萌音に死んでほしくない。

そんな思いで、萌音のところに向かった。

手術室の前には翔太がいた。


「俺、振られてしまったよ」


翔太が振られたと言った瞬間、

心のどこかで喜ぶ自分がいた。


「そうか。ドンマイ」


「どうせ、嬉しいんだろ?よかったな。

おまえ、昔からずっと好きだったもんな」


「うん」


「あの日、お前を殴ってごめんな」


「そんなんで許されると思ってるの」


「…………」


「何てな。別にもう良いよ。

終わったことだから。

僕の恋も」


「ありがとう」


プルルル

僕のスマホから鳴り響いた。

取り出すと空からだった。


「もしもし。お前、何やってるの?」


「萌音の手術を見守ってる」


「はあ?こっちは盛大に盛り上がってるよ。

映画、スマホで撮ったから送ってやるよ」


LINEで映画が届いた。時間は20分。


「ありがとう」


手術のランプが消え、

僕と翔太は萌音のところに向かった。


「大丈夫ですか?」


「手術は成功しました。

命に問題はありません」


よかった。僕と翔太はハイタッチをした。


「でも…………」


「でも?」


「後遺症により記憶を失いました」


「え…………」


言葉が出なかった。

実際、萌音に会いに行くと萌音に


「あなた誰?」


と言われてしまった。

何で?何でだよ!あんなに元気だったのに。

翔太は手術が成功したと

分かると何も言わずに

帰っていった。


「萌音、本当に覚えてないの?」


「ごめんなさい」


僕は病院を後にした。

泣きながら海に向かった。

あの時の萌音に会いたい。

海の砂浜で1人で映画を見ながら

寝転がっていた。

空はただ高く青かった。

現実逃避をしたい。

映画はクライマックスを迎えた。





気がつくと浜辺で倒れていた。

何があったのか?何でここにいるのか?

自分には好きな人がいたはず。

それは誰なのか?

何もかも忘れていた。ただ好きな人に会いたいために

僕は王国を回り始めた。

走る体力も無い中、家を訪問した。

きっと顔を見れば思い出す。

そう思い込んでいた。

この王国は不思議だ。住民が全員鳩だった。

1時間ぐらい経っただろうか。

もう歩く力も無くなっていた。

もう僕は無理かもしれない。

ポツン

頭の上に水が落ちた。

その瞬間、体力が回復し、

記憶を取り戻した。

そうだ。あの時、狼に魂を取られて……。

周りを見ると鳩の住民が人間に戻っていた。

僕の好きな人は……萌音だ。

僕は走り出した。

お願い。やめて。死なないで。


『萌音。大丈夫?』


そこには1人の少年がいた。

そして、少年は首を横に振った。




20分前の事だった。


『萌音様。大丈夫でしょうか?』


『私の魂はもう残り少ない。

ならみんなに配りたいです』


『何を言っているのですか?

私の魂をあげますよ』


『やめて。死んでほしくない。

死ぬのは私だけで充分なの。

みんなを人間に戻してあげたい』


萌音はベランダに出て

魂を王国中に降らせた。雨となって。




僕は萌音の元に行き、手を握り涙を流した。

本当はここで終わる予定だった。

しかし、監督はカットと言わなかった。

僕は続けることにした。


『萌音。ごめんね。

僕のせいでこんなことに……。

もっと僕が強ければ。

もっと早く助けてれば』


出てくる言葉はどれも後悔ばかりだった。


『萌音は高嶺の花だ。

僕は萌音に追いつきたくて、

勉強も頑張って……。

苦手な体育にも取り組んだ。

でも、僕は枯れた花だったのかもしれない』


涙が溢れ出た。

その時だった。

萌音は目を覚ましてしまった。


『ありがとう』


『萌音に会えて良かったよ。大好きだよ』


『私も健くんのこと、ずっと好きだったよ。

もし、私が死んでも泣かないでね』


『無理だよ。そんなの。

一生このままが良い』


『ありがとう。健くんなら私がどこにいても

必ず探してくれそうだね。

そして、私を笑顔にしてくれる。

あの時も確か私を助けてくれたよね』


『あの時って?

萌音と出会ったのは高校からじゃ…』


『私が小学生の時だった。

家族で海に行っていた時、

海に夢中になっていた

私は迷子になってしまった。

そんな私に1人の少年は笑顔で

かき氷を渡して、

食べる?とだけ言ってくれた。

私はそれが嬉しくて……。

それからかき氷は

私の好きな食べ物になったの』


現実と劇が重なり合ってしまった。

こんな設定はどこにも無かったのに。

ふと監督を見たが、黙っていた。


『そうだったんだ』


『健くんは枯れた花なんかじゃ無いよ。

私を助けて、笑顔にしてくれた。

私の胸の中でずっと咲いてるよ。

健くんの笑顔が。

また逢おうね。約束だよ』


『うん』


萌音と僕は抱き合った。

萌音の心臓の鼓動が伝わってきた。

それから10分後、萌音は眠りについた。

僕は『ありがとう』とだけ言って

病院を後にした。

END



萌音がアドリブで言った『大好きだよ』

これは本当だったのか。

映画のセリフとして言ったのか。

よく分からなかった。

でも、僕と萌音が釣り合うはずが無い。

あれは全部嘘だったのかもしれない。

いや、絶対嘘だ。

元々、萌音とは生きている次元が違った。

でも……脳裏に萌音の声が響き渡る。


『また逢おうね。約束だよ』


そうだ。あの日、劇の中で

僕は萌音と約束をしたんだ。

僕の足は病院へと向かった。

頭では無理って分かってるのに。

記憶を失った萌音に

どうしてあげたら良いのか?

どうやったら記憶を取り戻してくれるか?

分からないことだらけだ。

でも、今は萌音に逢いたい。

その一心で走り続けた。

病室に着き、萌音と出会った。

萌音は不思議そうに僕の顔を見ていた。

これから何が起こるか分からない。

記憶が戻るかも分からない。

それでも、

僕は萌音と一緒にいることを決意した。


「初めまして。僕は主人公を演じた健です。

よろしく」


もう赤点を取るのもやめる。

運動も頑張るから。どうか見てて。

高嶺の花に少しでも追いつけるように。

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高嶺の花と勇者の恋 緑のキツネ @midori-myfriend

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