高嶺の花と勇者の恋

緑のキツネ

第1話 僕と君とは釣り合わない

「初めまして。

僕は主人公を演じる健(けん)です。

よろしく」


「初めまして。

私はヒロイン役を演じる萌音です。

よろしくお願いします」


僕たちは同じクラスなのに初めて顔を合わせた。


「よーーいスタート」





1人の声が教室に響きカメラが回り始めた。

ガラガラ

扉を開けて2人の男が僕に声をかける。


『おはよう』


『おはよー』


『おはよう。2人とも元気だね』


『健は今日のテストはどうなの?』


『テストか。赤点かもな』


『俺もだぜ』


知人Aと赤点を取る約束として握手をした。


『僕たちは仲間だ』


『一緒に赤点を取ろうぜ』


知人Aが女神のように感じた。


『お前らまだそんな事言ってるの?

そろそろ赤点から脱出しろよ』


そう翔太が言ってきた。

翔太はテストは満点、成績はオール5

運動神経も抜群で高嶺の花と呼ばれている。


『そんな事言われても……僕には無理だよ』


『俺が教えてあげるから

早く教科書開きなさい』


僕は仕方なく鞄から

教科書を出そうとした時、

ガラガラ

扉が開く音がした。

振り返るとそこには美少女がいた。


『それよりお前、

あいつのこと好きなんだろ?』


知人Aが美少女の方を指差した。


『う…うん』


図星をつかれて言葉が出なかった。


『あいつは高嶺の花って呼ばれてるぐらい

テストは満点、運動神経も抜群に良いし、

顔が小さくて可愛い。

お前が赤点取ればもう釣り合わないな』


『そうだよな』


僕はため息をついて空を見上げた。

僕の好きな人は萌音。

確かに釣り合うはずがない。


『ねえ、今日のテストできそう?』


その声が近づいてきた。

僕に話しかけてる?まじで!?

横を見ると翔太と萌音が話していた。

あいつは昔から幼なじみだった。

それが羨ましかった。

楽しそうに笑っていた。

あんな顔は見たことない。

萌音は自分の机に向かって行った。


『お前は良いよな。

勉強も出来て運動もできて……。

僕とは大違いだよ。

僕とあの人なんてどうせ釣り合わないんだ』


『勉強はやれば伸びるから。

早く教科書を出しなさい。

教えてあげるから』


『ありがとう』


鞄から教科書を出した。

翔太が教えてくれている間、

ずっと萌音の事を見ていた。





「カッーート。完璧だね」


教室での撮影が終わった。

今、僕たちは6月にある

文化祭の映画を作っている。

『高嶺の花と勇者の恋』という話だ。

僕は主人公の名前と同じ健。

実は僕は萌音のことがずっと好きだった。

だから、この役になった時運命を感じた。

萌音と話すことが出来るんじゃないか?

それで付き合えたらな。

そんな妄想が後を絶たない。


「ねえ、何してるの?」


この声は?前を見ると萌音がいた。

明らかに僕に話しかけていた。

心臓の音が急に早くなる。


「何も、して、ないけど」


出た言葉は途切れ途切れだった。


「何か、ずっと下向いてたけど」


妄想をしていたなんて絶対に言えない。


「いや、何もしてないけど」


「そう?」


今がチャンスだ。何か言わないと。


「あの、一緒に海に行きませんか?」


「映画の下見ってこと?良いよ」


そうだった。

次の撮影は海で行われるんだった。

何はともあれ、

2人で海に行けるのは嬉しかった。

明後日行くことになり、

胸がドキドキしている。

うまく行くかな。嫌われないかな。


「おーい」


この声は知人A役の空だ。


「結構良い感じじゃん」


「ありがとう」


「俺はお前を応援してるからな」


「ありがとう」


そして、海へのデートの日となった。

デートと呼べるかは分からないけど。

デートは好きな人と行けたら

デートだと思っている。

僕は駅前で萌音を待っていた。

約束の時刻から5分が経ったが、

まだきてなかった。

何かあったのか。忘れたのかな。

時間が経つことに不安が増えていく。

時間と不安は比例していることが分かった。

気がつくと10分が経っていた。

大丈夫かな。


「ごめーーん」


振り返ると萌音が手を振っていた。


「何してたの?」


「少し、寝坊しちゃって」


こんな日に寝坊するのもまた可愛らしい。

それがモテる理由なのかもしれない。

手汗が止まらなくなり、ドキドキが止まらなかった。


「よし行こう」


僕は上手く萌音をリードしようとした。

駅に行き電車に乗ろうとしたが、

乗る電車を間違えてしまい、気づいたのも遅く、

海とは真反対の都会へ着いてしまった。


「何やってるの!」


その声が僕の頭の中で永遠に流れている。

もう嫌われたかもしれない。

やっぱり僕たちは釣り合わないんだ。


「早く行くよ」


今度は萌音が僕をリードして

ショッピングモールに

連れて行った。

海ではなかったものの、

服や文房具を買って盛り上がった。

その途中でラインを交換した。

僕にとってライン交換は恋への

第一歩だった。


「ねえ、かき氷が食べたい」


突然、萌音がそんな事を言い出した。

僕は必死に地図を見て探した。

かき氷が食べれるところは……。

ここから歩いて30分のところに店があった。


「ここから歩いて30分だって」


「30分も歩くの……。無理だよ。

もう足が疲れたよ……」


「じゃあかき氷は諦めるか……」


「食べたい。でも歩きたくない」


こういうわがままな所も可愛いな。

そんなことを思いながら

僕は萌音をおんぶした。

人生で初めて人をおんぶした。


「ありがとう」


それから1時間が経っただろうか。

やっとかき氷屋に着いた。


「着いたよ」


「ありがとう。健君は優しいね」


優しい。初めて人に褒められた。

それが自分の中でとても嬉しかった。

もしかして僕たち、

このままいけば付き合えるんじゃ……。

そんな妄想をしていたら前に

涙目の萌音がいた。


「どうしたの?」


「店が閉まってる」


「え!?」


そこには休みとあった。

改めて地図を見てみると

今日は休みと書かれていた。


「ごめん。本当にごめん」


「いや。良いよ。こちらこそごめんね」


結局カフェに行った。

コーヒーを飲みながら


「そろそろ帰る?」


僕が萌音に言ったが、返事がなかった。

前を見てみると萌音は眠っていた。

僕は萌音をもう1回おんぶして

駅まで連れて行った。


「今日はありがとう」


「おはよう。こちらこそ……

たの…しかったよ」


寝言かどうかは分からないけど、

声が聞こえた。

電車の中ではずっと眠っていた。

その姿も可愛かった。

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