不死身の男編 2

エピローグ

 真っ青な快晴の青空の下にある王都の住人は昨日の巨大な魔獣の襲撃にあったとは思えない通常通りの日常が送られていた。

 それに対して王宮では誰がこの魔獣の襲撃を謀ったのかの事実確認で忙殺されていた。

 そんな王都の第一区ファーストエリアを上から眺められる事のできる展望台には一人の人影があった。


「こんなところにいて、まだ死んでなかったのか?」


 人影の背後の足元から聞こえる声に人影は声のする足元を見る。足元には蛍光色の青の体毛の狸——ラムダがいた。


「ここにいる私は分身です。じきにこの体もちて消えます」


 ラムダを一瞥いちべつして話す人影——ニコラスはすぐに視線を快晴の空に変えた。


「昨日の一戦で私の本体は完全に消滅しました。これも貴方方役者のおかげです」

「殺して感謝されるとは思いもしなかった」


 空を見ながら傍にいるラムダと話すニコラスの雰囲気はどこか哀愁が漂っていた。そんなニコラスの言葉にラムダは返事を返す。

 するとラムダは後ろを振り返った。


「おや。私に何か用があるのでは?」

「もう死んだ相手に用などない。ただ分身の貴様がまだこの世にいる事に疑問を感じただけだ」

「そうですか。その理由なら簡単です。私が殺される姿をこの目に焼き付けておきたかったからです」

「どこまで猟奇的りょうきてきなんだ。貴様は」


 ラムダの疑問に堪えたニコラスの回答を聞いて呆れた口調の言葉が漏れる。


「そうですか。ですが最後に極上の刺激を味わう事が出来ました。そしてこの目にしっかりと焼きつけました。これで思い残す事もありません」


 そんな事を言うと、ニコラスの体の端々から徐々に白く変わっていく。

 白く変わっていく体は風通しの良い展望台に吹く風に乗ってその場から散っていく。


「最期に聞きたい」

「何でしょうか?」


 ラムダの言葉に返事を返すニコラス。その時の言葉には今までのような愉悦も猟奇的な雰囲気を感じさせない、あまりに素朴で普通と表現するのがしっくりくる返事だった。


「貴様の本当の名前は何だ?」

「思っていたよりも聡いようですね。ニコラス・アレキウスが偽名だと気付いていたのですか?」

「ニコラス・アレキウスは儂の体の元にになった実験体の開発者の名前だ。その人物に貴様が途中から成り代わっていたのは後から人づてで聞いた」


 ラムダの言葉を聞いたニコラスは感心したように小さく頷く。


「それも知っていたのですか。まあ、バレたところで周りの人達はどうこう言う人間ではなかったですから。おっと、そろそろ本当のお別れのようです」


 そう言うとニコラスの体はすでに腕の関節まで体が灰となって朽ちていた。そしてニコラス——不死身だった男は天を仰いだ。


「貴方になら私の本当の名前を教えてもいいでしょう。私の名前は——」


 そう口にした後、不死身だった男は自身の本当の名を口にした。

 その直後、不死身だった男は体が全て白い灰に変わり風に乗って散っていった。


「これで二度と会う事は無い。そう信じたいものだ。——」


 後ろを振り返っていたラムダはそのまま展望台から離れていく。

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セイクリッド・カルテット ~不死身の男の殺し方~ 中野砥石 @486946

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