第10話 休息

「あのまま二日間意識を失うなんて、無理しすぎにもほどがある」


 宿屋の部屋の床に座っているネールは愚痴ぐちこぼす。


「目が覚めたんだからいいじゃないですか。確かに二日も寝たままで迷惑を掛けましたが」


 愚痴を零すネールにベッドに横になったままのミリアは申し訳なさそうにネールと話す。


 魔獣の襲撃から二日が経過した。


 王都には巨大な魔獣の被害は何もなく、王都を襲った魔獣は何者かに討伐された。

 魔獣の攻撃を防いだ結界けっかいを張った本人であるミリアは王都の住人から何も認知される事もなかった。もちろん称賛される事も謝礼も受け取る事もなかった。


「ミリアが寝込んだ事もそうだが、本来の予定より長く王都に滞在しすぎた。宿代もかさむぞ」


 ネールの現実的な話題にミリアは苦い顔を浮かべる。

 本来なら宿に泊まる予定などなかった。しかし魔獣から王都を守る結界を張るために宿を取り、結界を張り続けるための魔導人形を制作、挙句あげくの果てにニコラスが召喚した巨大魔獣を討伐した影響で予定外の出費もかさんだ。

 そのせいでミリアの懐はとても涼しくなっていた。


「ですが、これでもう魔獣の被害はなくなりました。それでいいじゃないですか」

「ミリアがそれでいいならそれでいいが」


 ミリアは懐が冷える中、自分自身に納得させるために言った言葉をネールは渋い表情を浮かべて返事を返す。

 ネールも今回の出来事は予想できなかった。

 それゆえにミリアへこれ以上強く注意できなかった。


「それよりこれからどうする? 財布がすっからかんじゃ、これからの旅もままならないぞ」


 ネールの発した下実的な言葉にミリアは言葉を返す。


「それならいい案があります」

「案?」

「はい。これです」


 そう言うとミリアは自信満々に胸を張ってネールの前に手を出す。

 前に出したミリアの手には懐中時計かいちゅうどけいがあった。


「これは?」


 ネールが尋ねるとミリアは鼻高々に答える。


「これは魔導人形の技術を使って制作した魔道具です。魔導人形をつくる合間につくっておいたんです」


 ネールの質問に答えるとミリアは手に持っている懐中時計の形の魔道具をネールに渡す。

 魔道具を受け取ったネールは魔道具の外観を見る。

 見た目は普通の懐中時計だ。しかし懐中時計の中にはごく少量の魔鉱石が内蔵されていた。


「この魔道具は体感時間を自由に変える事が出来ます。それを質屋にでも売れば金には困らないはずです」


 自信満々に言うミリアにネールは呆れて口をあんぐりと開いた。


「ったく、お前は賢いのかバカなんだかわかんな」

「この場合は賢いだけでいいんです」


 ネールの言葉にツッコむミリアは頬を膨らませる。そんなミリアを見るネールはやれやれと呆れながら手の焼ける子だと思った。


「それだったら旅の道中で制作した魔道具を売って言ったらいい商売になるんじゃないか?」

「その案いいですね! そうすれば財布が潤いますね!」

「これをつくった時点で思い付けよ」


 ミリアにツッコミを返すネールははぁ、と疲れたような溜息を吐く。


「それだけ元気なら明日には王都を出るか?」

「そうですね。宿代がこれ以上かさむ前にここから出ましょう」


 ミリアはベッドから上半身を起こした体を再度倒して横になった。

 窓から差し込む暖かな陽気にミリアとネールは暫しの間、心を休ませる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る