第20話ともだち

 

 健斗君のお墓からは桜の花が見えた。高台の墓地からは、桜並木を望むことが出来るが、まだ花の時期には早く蕾は固く小さかった。

 高台のこの場所は風が強く線香に火を点けるのが難しかった。弘樹君は風に翻弄され、幾度か「あっつい」と声を漏らし、なかなか線香に火を点けられずにいた。

 だから、加奈ちゃんと梨花ちゃん、私の三人は弘樹君の手元を囲むようにして風を塞いだ。

 やっとのことで点いた線香を供えると煙の揺らぎが目に染みた。

 私たちは各々携えてきた卒業式の花を、共にこの日を迎えたかった友だちへの贈り物とした。

 

 決断を迫られたあの時、私は黒いスーツのおじさんにダメもとで聞いた。すると、おじさんは躊躇するでもなく私の知りたかったことを教えてくれたのだった。

 あの事故での重症者は十名、死者は一名だった。

 健斗君は即死だったらしい。

 重傷者のうち六名は意識をなくすことなく数か月後には退院したが、私達四名は意識がないまま時間が流れた。私たちは、意識がない間、魂が体から離れ現実と非現実のはざまの世界に紛れ込んでいたらしい。

 そして、いくら若い体であっても、病院で管理されていたとしても、魂が生きようとしなければいずれ体は死を迎える。そのタイムリミットが近づいていた。

 だから、自身で気付き決断を促せるように、スーツ姿の魂管理人が私達へと派遣されたらしい。

 それは、気づかないまま死を迎えた魂を駆逐対象の浮遊霊や地縛霊にさせないた為でもあった。

 健斗くんには命を失ったその時、心残りがあった。死を受け入れられない若い魂の心残り。健斗くんに派遣された魂管理人は、健斗くんに対してその心残りを私たちと同じ現実と非現実の間の世界で昇華する猶予を与えた。心からの友を作ることと、淡い初恋に対して。

 

 「健斗、俺たちは、ずっと友達だからな……」

 「うん、そうだよ」梨花ちゃんの言葉は、いつもと違い少なかった。

 「また、会いに来るからね。大切な友達だから、」

 「私、健斗くんの言葉を忘れないよ。だって、健斗くんは大切なともだちで……そして、初恋なんだから…」

 三人は私と健斗くんの気持ちに気付いていたのかもしれない。私の言葉に驚いた様子は見受けられなかったから。

(健斗君、初恋の相手は永遠に変わらないんだよ。でも、約束通り幸せになるからね)

 「あ、あれ、花が咲いてる」

 梨花ちゃんの指す桜の枝先に目を遣ると、そこには五つの小さな花が開いていた。

 桜の花言葉の一つに微笑みがある。健斗くんの微笑みが思い浮かんだ。

 そして、私たちは歩き出した。


            〔完〕

 途中、自分の伝えたいことをどのように書けば良いのかわからなくなり、度々、お休みしてしまいましたが、読んでくださる皆様のおかげで何とかここまで辿り着くことが出来ました。ありがとうございました。

 本来は長編のつもりでしたが、今回は短編でとりあえず完結とします。

 また月日が経って書けそうになったら、このお話をもっと膨らませたいとも思っています。

 その時には、再びお付き合いいただけると幸いです。

 

 



 

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ともだち 真堂 美木 (しんどう みき) @mamiobba7

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