第19話再び

 一年近く意識の無かった私が意識を取り戻したことに、両親は喜びの涙を流した。主治医の先生や看護師さんも嬉々として退院へ向けてのリハビリなど、私専用のスケジュールを作成してくれた。

 そのおかげなのかリハビリは順調に進み、わたしは意識をとりもどしてから一月ほどで無事自宅へと退院することができた。

 

 復学後、季節は廻り再び厳しい冬を超えた今日、私は一年遅れの卒業式を迎えることが出来た。入学式の日、母と上った高校への坂道を今朝は両親と共に一歩一歩上っている。何だか、気恥ずかしいけれど嬉しい。両親と共に歩くのは幼稚園の卒園式以来だ。

 私が意識を取り戻しリハビリに励む中、父と母の関係も修復されていったような気がする。当初は、たぶん私を支える協同的な感覚だったのかもしれないが、そのうちにお互いを思いやる言葉や態度が見て取れるようになった。だからと言って手放しで「仲の良い両親」とは、まだ言えないけれど。

 

 あの時、選択を迫られた時に迷わないわけではなかった。

 でも、私は生きることを選んだ。なぜなら、健斗君の言葉が浮かんだから。

 「えんちゃんには、この世界でもっと幸せを感じて欲しい…」今もその声が鮮明に響いている。


 「本当に大丈夫なの」卒業式の後、感動の涙が乾ききらない母が言った。

 「うん、大丈夫。友達と帰りにどうしても寄りたいところがあるの」

 私を残して帰ることに不安そうな母を優しく誘うように、父は私に「気を付けるんだよ」と言って母の肩に軽く腕を回して歩き出した。

 両親が並んで歩く後姿に、ほのぼのとした優しさを感じた。


 「えんちゃん、そろそろ行こうか」

 「うん、」

 私たちは卒業のお祝いでもらった一輪の花をそれぞれ携えて歩き出した。

 

 

 

 

 

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