異世界おかゆ巡り
@maruidan5nosuke
第1話 打合せと異世界屋台村の焼きミルクがゆ
異世界転移が安全で安価となり、異世界旅行が大衆化し、異世界からの来訪者や移住者も増えた時代。異世界人の集まる新宿百人町は、リトル異世界と呼ばれ異世界転移なしで異世界旅行気分を楽しまる場所として、人気を集めていた。
そんな中、異世界情緒と異世界料理が堪能できる百人町異世界屋台村は、異世界人には懐かしく、日本人には物珍しい観光スポットとして繁盛していたのである。
「というわけでね。今度うちの月刊異世界ウォークの別冊特集としてね、異世界おかゆ巡りっていう雑誌っぽい書籍を作ることになったのね、雷太ちゃん。
やっぱりねぇ、日本人観光客って、異世界でもお行儀がよくて、人気なのよね。ただし、異世界側としては、エロおやじと異世界オタク、コスプレイヤーと異世界人の区別もつかない撮影マニアには、来てほしくないわけ。そのため、異世界のまともな観光業者や行政としては日本の高齢者や女性を観光客として誘致したいのね。この異世界側の意向と、今回の異世界おかゆ巡りはうまくマッチすると思うのよ。」と言いながら、月刊異世界ウォークの編集さんは、異世界屋台村名物、日本人の好みに忖度しないガチ目の異世界料理を堪能しつつ、ストロングな酎ハイをガブガブと飲み込んでいた。
「それで、実際には、どこで、どのようなおかゆをたべるのですか。編集さん。」
「そうね、雷太ちゃん。いまのところ、異世界の港湾都市アロマポートの朝市の屋台で堪能する地元のオーソドックスなおかゆと、ラミア国ナーガノ県のそばがゆ、欧州中世風お城でいただくオートミールのポリッジ、京都に似たオリタルファンタジーな異世界の古都の茶粥、心身ともに浄化される僧院での修行後に振るわれる精進料理とおかゆ、エルフ名物ビーガンかゆといったところが候補あがっているわね。」と編集さんが言ったところで、締めの焼きミルクがゆを店員さんが運んできた。焼いたミルクがゆというと奇異な感じだが、アツアツの程よい甘さのミルクプディングの上に砂糖を散らして絶妙な火加減で香ばしく甘すぎず苦すぎずカラメルにしたデザートで、刺激が強いものが多い異世界屋台村の料理の締めには、なかなかいい感じである。
「おいしいですねぇ」と、俺。
「そうねぇー、雷太ちゃん。キンキンに冷やした焼きミルクがゆも良いけど、アツアツな焼きミルクがゆとアイスを交互に食べるのが私的には最高なわけ。実際の異世界の食事は色々と面白いわよ。」
「なるほど。自分としては、おかゆ以外の高級料理や、同じ異世界のおかゆにしても、高級レストランや高級ホテルでも取材もしたいのですがね、編集さん。」
「雷太ちゃん。そっちの分野はね、人気の旅行作家が担当するのね。異世界側としては、今まで観光客が訪れない辺境やストリートフードを紹介してほしいって意向があるの。」
「ですよねー。予想してはいましたけど。」
「でね、雷太ちゃん。日本から異世界観光に行く人が、実際には安全で衛生的な高級ホテルや高級レストランあるいは豪華客船で食事するとしても、疑似体験として、ストリートフードや辺境の郷土料理のイメージがあると良い訳よね。
という訳で、街おこしや村おこしがらみで異世界のストリートフードや辺境の異種族料理などを観光の目玉にする上でも、実際に現地や現場で実食して食レポするライターさんは必要な訳。
そこで、編集長から安い原稿料で、それなりの文章がかけ、どこへでも行って、何でも食べて、何を食べさせても旨いって喜んで、食レポタレントのような大仰なリアクションではなく、自然な表情でうれしそうな顔で食べまくるライターを探して来いって言われたのよ。
普通だったら、かなりの無理ゲーだけど、幸いにして、雷太ちゃんは、何を食べさせても美味しい美味しいって実に嬉しそうに食べてくれて、どこへでも行って何でも食べる行動力と僻地や辺境や見知らぬ市街地でも生き抜くタフさがあって、原稿料の安さのわりには、良い感じの文章を書くじゃない。
編集長に話したら、雷太ちゃんに取材してもらって何本か原稿を挙げてもらって、出来が良ければ、月刊異世界ウォーカーに掲載し、反応をみてから、異世界おかゆ巡りのライターとして本採用って話になったのね。
あと、写真の撮影や取材の交渉は観光協会などの異世界側の担当組織がやってくれることになっているので、雷太ちゃんは食べて素敵な文書を書くだけでいいのよ。
もちろん、お試し期間中も、旅費や取材費などの実費は払うし、安いけど原稿料も払うわ。
どう、やってみない。」
俺には、従来からお世話になっていた編集さんに、誘われて断る選択しなかった。
ということで、貧乏ライターの俺こと宇連内雷太は異世界おかゆ巡りの取材旅行に出発することになったのである。
異世界おかゆ巡り @maruidan5nosuke
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