第9話 受験、入学。その前に

 推薦入試を受けたのは1月だったと思う。とても寒い時期だったと記憶している。

 小論文と国語の問題は、恐らくなんなくクリア。面接で、面接官に


「あー君、英語が悪いねえ。英語あったらここ受けなかった?」


と、唐突に聞かれ口をパクパクしてしまったことは不覚だった。当たり前だよ。


 結果。受験者全員合格。これで我が母校は文科省の怒りを買い、助成金出さないぞコラ、と言われて、それからはきっちり定員獲るようになったとかならなかったとか。

 文科省が怒ろうがなんだろうが、合格さえいただければこっちのもの。私は晴れて現役合格して、女子大生生活への扉が開いたのだ。そして、この大学は制服があり、上履きもあり、監視カメラもあり、禁酒禁煙であり、なかなかに厳しい学校だった。ホールにはシャンデリアが光り、講堂にはパイプオルガンが仕込んであるような豪奢な作り。勿論入学金から授業料までそれはそれは恐ろしい額なのだ。でも、払うって言ったのは父の方。いくら生活が苦しかろうがなんだろうが、四年間きっちり払って貰いますから。

 私の入学式の3日前に、父は私と母にこの家を出ていく旨を告げていた。そこで出てくる六法全書の知恵。父に、一筆書かせたのだ。生活費、学費をん十万円入れること、という奴を。拇印つきで。父はビックリしていた。まさか母にそんな知恵があるとは、という表情で。はい、私の入れ知恵。いつまでも泣いてるばかりのこどもじゃない。あなたがそうさせた。


 そしたら、よりによって私の入学式の間に荷物まとめてトンズラよ。泥棒か。

 でも、はらはら舞う桜の並木の下で、母とこれで平穏に暮らせることを祝った。


 私の暗い森はまだ暗かったけれど、どこからか花の匂いがして、あたたかな風が吹いて。どこまでも暗い森は続かないことを感じた。いつか、いつかこの森を抜け出せる。その日を、今はゆっくり待とう。そう考えた。

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暗い森 わか @wacasama0802

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