第8話 新しい一歩
それからは忙しかった。平均評定がちょっと足りないので、下駄をはかせてもらったり、必須になっている国語と小論文と勉強をして、面説の練習をしたり、バタバタだった。なにしろ、浪人できない受験生なのだ。毎日遅くまで色々やっているところに、いつもの無言電話は律儀にかかってきていた。
ある夜。一時半ごろか電話が鳴り、出ると若めの女の泣き叫ぶ声が受話器から聞こえた。
「いい加減別れろよお……!」
うわ。浮気相手が本気になって電話してきた。
「──お前、親父の女か」
元々低い声が、もっと低くなるのを自分でも感じる。そして、自分でも怖いくらいに冷静だった。
「誰だてめぇ」
なんだかレベルの低そうな女だなあ、と思いながらはっきりと返した。
「娘だよ、親父の。文句あんなら聞いてやる。でもな、人の道に外れてんのはそっちだかな」
「畜生!」
それきり電話は切れた。そして、それが最初で最後の電話だった。父はヤンキーと付き合っているのだろうか。低い。あまりにもレベルが低すぎる。
そんな電話がかかってきたとも気がつかずに、父はまた今日も午前様だ。
暗い森の中にも、うっすら日が差しているところがあると噂に聞いた、そんな気分だった。
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