第5話 17歳の女子高生 Ⅲ
「伊藤様、織田雪様の元へ到着しました。扉の向こうで織田雪様がお待ちです。ごゆっくりどうぞ。」
「はい、ありがとうございます。」
なつみは、再会センターと書かれた建物の扉に手を掛けて、一息ついて扉を開けた。
「なつみ、久しぶり。あんたが来るなんてびっくりだよ。」
そこには、あの頃と変わらない雪がいた。
「雪!私は、私は、本当に取り返しの付かないことをしてしまった……。裏切ってごめんなさい。本当にごめんなさい。」
なつみは、雪の姿を見て真っ先に深々と頭を下げた。
「なつみ、顔を上げて。私は、私をいじめて追い詰めた人のことを許せない。だから、なつみのことも私は許すことができない。だけど、なつみは1番長い間私の味方でいてくれた。そのことは感謝してる。ありがとう。」
「雪……。私が弱かったせいで……。私が雪を裏切ってしまった少し前に、雪の味方でいるなら私のこともいじめると言われて、はじめはそんなこと言われたって雪の味方でいるんだって思っていたんだけど、私への嫌がらせも始まって怖くなって、雪を裏切ってしまった。許してほしいなんて思わない。私は雪に対して本当に最低なことをしたから。だけど、雪と少し話しがしたい。」
「なつみ、そんなことがあったんだね。私のせいでごめんね。」
「雪は謝らないで。私が悪いんだから。」
「そんなことがあったって知れて良かった。なつみに裏切られたことが一番ショックだったから……。いいよ、少し話そう。」
そう言って、雪は少し微笑んだ。
「ありがとう。」
「高校生活ってどんな感じ?」
「勉強がいきなり難しくなって大変。私バカだからさ、いつも補講くらってて。」
「そうなんだ。なつみ、運動はできるけど、勉強はダメだったもんね。」
「そうそう。あ、少し気になってることがあるんだけど。」
「何?」
「雪の見た目があの頃と変わらないなと思って。」
「あ~。転生しない限り死んだときの歳のままなの。若返ることもなければ、歳を取ることもないんだ。」
「そうなんだ。びっくりだよ。」
「幼い子から優先的に転生できるようになってる。」
「なるほどね、小さい子は何もできないからか。」
「そうそう。やっぱりなつみと話していると楽しいな。」
「そう?嬉しいな。私も雪とまた話せて嬉しい。また会いにきてもいい?」
「良いよ。」
「ありがとう。無理しなくていいからね。」
「うん。今日話して、私が知らなかったこともあったし……。また高校生活ってどんな感じなのか教えてほしいな。」
「もちろん。今日は会ってくれて本当にありがとう。」
「こちらこそ来てくれてありがとう。またね。」
「うん。」
周りが暗い中、1カ所だけ明かりが灯っている建物で、2人は笑顔で手を振りながら別れを告げた。
「伊藤様、おかえりなさいませ。現実世界へ戻りましょう。」
「はい。」
真っ黒なタクシーは、雲がなくなった星が輝く空に向かって走り出した。
「どうでしたか?」
運転手は心配そうになつみのことを見た。
「雪と話すことができました。あの時、私がどんな気持ちでいたのか話しました。元通りの関係には戻れなかったけど、最後はお互い笑顔で話ができました。」
「それは良かったです。このタクシーは、生者と死者の架け橋になると私は思っています。タクシーは何度でも利用できるので、またぜひご利用くださいませ。」
「また利用させていただきます。」
混雑のピークを過ぎた、人がまばらなタクシー乗り場が見えてきた。
「お客さま1つ重要なことを言い忘れていました。時間についてなのですが、『死者の世界』で過ごした時間分、現実世界でも進んでいますのでご注意ください。」
「あ!分かりました。」
真っ黒なタクシーは、タクシー乗り場に軽やかに舞い降りた。
「本日は、ご利用ありがとうございました。」
「こちらこそ、ありがとうございました。」
タクシーから降りると、スマホには着信の嵐だった。
「もしもし。お母さん?ごめん……。遅くなったのにはちゃんと理由があって、話すと長くなる……。分かった、すぐ帰るから。」
なつみは、白のタクシーに乗り込んだ。その時のなつみの足取りは軽かった。
「次に会うお客さまは、果たしてどのような方なのでしょうか。」
真っ黒なタクシーは、颯爽と満天の星空へと消えた。
〈『死者の世界』新情報〉
・『死者の世界』には、仕事がある。その仕事の中には、死神など『死者の世界』ならではの仕事もある。
・年齢は、転生しない限り亡くなったときの年齢のままである。転生は、若い人が優先される。
死者の世界へごあんな〜い 久留米くるす @Uki192-lpS
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