第6話 べにばら

ベニバラとシロバラは、双子の姉妹である。

二人はいつも一緒で、喧嘩をする事があったとしてもすぐに仲直りができてしまう。赤ん坊の時は、ふたり手を繋いで眠り、あらゆる成長をふたり一緒に迎えてきた。

姿形もとてもよく似ていて、声すらも耳の良い少女にはなんとか聞き分けることができるほどで、周囲は二人をなかなか見分けることが出来ずにいた。困った大人たちは二人の細く柔らかい髪をポニーテールにし、そのリボンの色で二人を見分けることにした。呼び名に倣って赤をベニバラ、白をシロバラ。だれも皆、二人が離れ離れになってしまうことは想像できなかった。

もちろん、本人たちもだ。


ふたりが与えられた贈り物は風のように速く走る事ができる、カモシカのように細く長く、しなやかな脚。しかしそれを二人で分つ事は難しかったのか、ベニバラは左脚、シロバラは右脚…ふたりの美しい脚の片方には白い肌を覆うように大きく赤黒い痣がついていた。

誰もが、二人がカミサマに娶られる事は難しいと考え、憐れむような目でその痣がなければね、と言う。けれども二人はお互いがいれば、それで幸せだった。

カミサマに娶られず、ずっと施設にいるのか…そこを出られるようになるのか分からないけれど。


そんな二人の目下の流行は、自由時間いっぱい日が暮れるまで、施設の中の森を走って…走って、どこまでも走って誰もたどり着けなかった施設の最果てを目指すことだった。

今まででも、速く走れる脚をカミサマのために授かった少女はいて、彼女たちも同じように森を駆けていたらしい。でも、そのいずれも終わりへ辿り着く前にカミサマに娶られていったのだ。しかし、自分たちの大きな痣のついた醜い脚ではカミサマに娶られる事もない。二人には時間がたっぷりとあるのだ。いつまでも、どこまでも挑戦ができる。

少女たちは第二次性徴は訪れないものの、どんどん背が伸び、見た目だけは大人の体に近づいて行く…それはつまり、双子の脚も同様に伸び筋力がついていくということだ。

月日がたっても双子は森の中を駆け続けた。


そんなある日のことだ。カミサマが双子を同時に娶ると決めてしまった。双子の脚の綺麗な部分を片足ずつ、求めているらしい。

いままでは、カミサマは二人同時に娶ることはしなかった。スズランとスミレのような特殊な例はあるものの、カミサマ自身が二人選ぶということは今までの例ではない。そしてさらに、つい3年ほど前にカミサマは美しい脚をほしがり、ノギクという少女を娶っている。彼女は肉感的で長く、均整のとれた筋肉のついた魅力的な脚を持ち、太ももの内側にひとつ、大きなほくろがついている。そんな美しい脚の少女を手に入れたにも関わらず、すぐに他の少女を娶るには少しペースが早すぎるのではないか?

少女達はざわついた。


そして、口々にノギクはカミサマに娶られてすぐ、亡くなったのではないか?カミサマの元から逃げ出してしまったのではないか?と噂を始めた。


噂の真相はどうあれ、ふたりには、施設の奥を確かめるための時間も猶予もなくなってしまった。

大人たちは2人分の花嫁の支度をはじめる。

残された猶予は、一週間しかない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

少女楽園 柊 秘密子 @himiko_miko12

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ