ばけもの珍道中

@Onlyone00001

主を求めて

ここはジャパリパーク立ち入り禁止区域。


権限の無い者がこの領域に足を踏み入れることは許されず、フレンズは誰1人も....それどころか、生物の一切が確認がされない奇妙な森である。


そもそもの話、こんな薄暗く気味が悪い森には誰も入りたいとは思わないだろう


そんな森の奥深くに、1つの青い炎が独り言を呟きながら揺らめいていた


「なかなか歩きましたね.....」

「でもまだ.....見つけるまで.....」

「我が主は....どこにいるんですか.....?」


青い炎はまたしばらく森を進んでいく

それが突然、足を止めた


「.....!」

「(視える....)」

「(セルリアン.......背後から2体に襲われる)」

「(まず右にいるのが真っ直ぐ、それに続いてもう片方が上から降ってくる...)」

「(でも....遅い)」


青い炎の超能力的予測の通りに背後の茂みから2体のセルリアンが襲いかかってきた


「(視えた通り...まずは右が突っ込んできて...)」


青い炎は焦りを見せず、未来で視たコンビネーション攻撃を無傷で済ませられる方向へ回避する準備を取った


が、その直後....


バシュッ!!バシュッ!!


何処からか飛んできた高速の虹色の矢が、セルリアンの急所を貫いた


「(......!?)」


爆ぜるセルリアンと共に、青い炎は困惑していた


「(私が見た未来では、セルリアンの背後からの攻撃は私に届いていた....)」

「(でも、今のセルリアンは飛び出した瞬間に何かに貫かれた)」

「(見えた未来と違う....? 一体何が....)」



「おい」


青い炎は声の方向へ意識を向けた、するとそこには偉そうに大岩の上で足を組んで座っている、虹色の尻尾をした白いフレンズが居た


指先が虹色に光っていることから、セルリアンを仕留めたのはこのフレンズだとろうとすぐに推測できた、そしてその白いフレンズが再び口を開く



「誰の許可でこの森に入った? ここは私の縄張りだ」



「へ....?」

「ここって....あなたの森だったんですか....?」


「ああ、お前はどのくらい私の森に居た?」


「この森に入ってから....そうですね、1ヶ月は経っていると思います」


「1ヶ月もこんな森にいるのか、暇な奴め」


「私も好きでいる訳じゃありません。それでも...ごめんなさい、まさか誰かの所有物だったなんて」

「でも、ここが誰かのものなんてこの森に入る前にも一切聞きませんでしたが....」


「当然だ。ここを私の縄張りとしたのはたった今の事だからな」


「たった今なんですね...」

「.....」

「え?」


「なんだ、何か問題あるか」



あまりにも突拍子な回答が返って、固まってしまう青い炎



「まあいい。残骸が消滅する前に始めてくれ」


「かしこまりました」



岩の裏から赤い髪をした、執事服のような姿をしたフレンズが現れた。



そのフレンズはセルリアンの破片に手を触れると、触れた箇所が光始めてセルリアンから何かの濁った液体が抜き取られ、もう片方の手に持ったワイングラスに注がれていく


その液体にふっと息を吹きかけると、それまで濁っていた液体が透き通り始めた



「お待たせ致しました」


「ご苦労」



ワイングラスが白いフレンズに渡されると、それを一口分飲んだ



「....ふむ、上等だ」



「身に余るご評価頂き、恐縮の限りでございます」

「禁足地でしか採れない素材から作られた珍酒...禁断というスパイスはニジヘビ様に最もお似合いになられると思われます」



「ああ、だが...これではない」


「はい、これはまだ未熟なもの....本物をご用意する事が叶わず、不徳の致すところでございます」


「あの....」



突然セルリアンから酒を作り出したのも、それを受け取って味わうのも、青い炎は目の前の起こった全てに困惑していた



「あなた達....一体なんなんですか?」


「私を知らないのか....失礼な奴だな。お前から話せ」


「はぁ....コシュタ・バワーって言います」


「そうか コなんとかよ、私の名はニジヘビ、世界の創造主だ。覚えておけ」


「創造主...? っていうか1文字しか覚えてない!?」


「名前には興味無い、お前の本質が知りたい」


「ニジヘビ様は森道を遊歩なさっている最中に貴方様の姿に興味を引かれ、声をおかけなさったのですよ」

「おっと、申し遅れました....私、ファリニシュと申します。どうかお見知り置きを」


ファリニシュはそう言うと一礼して、ニジヘビが飲み干したワイングラスを受け取った。


「なかなか珍しいものが森を歩いていると思ったが」

「それは...炎ではないな?お前もフレンズだったのか?」


「はい、私もフレンズです。これは髪の毛で、ある尊敬している人の真似をしているんですよ」


ニジヘビは続けて問いかけた。

「顔の前を完全に閉じているだろう、前は見えるのか?」


「はい...昔は顔の必要の無い生活をしていたので.....」


「ほう...大方予想は着いたが、まだ直接見て見ないと分からないだろう....」

「興味が湧いたな。その外套の中身を見せてみろ」


「へっ....?」



先程までの声が僅かに弱気になる



「2度言わすな。顔を見せろ、フレンズになった今はあるのだろう?」


「えっ...えっと....」



ニジヘビが襟を掴もうと1歩近寄るが、コシュはその数倍の距離後ろに下がった



「.....なぜ逃げる」


「ごめんなさい.....顔はとある事情で絶対に見られたくなくって....」



コシュは明らかに何かに怯えている様子を見せた。



「ほーーう....」



それまで無表情に近かったニジヘビの表情が、ニヤリと口角が僅かに上がった



「と...とにかく! 私は用事があるのでこれで失礼しますね...!!それでは...!!」



一息で言い切り、コシュは全力で逃げていった


...が



「逃がさん」


「なっ....!?!?」



コシュの周りを囲むように、虹色の壁がそびえ立っていた。



「(ああ、コシュタ・バワー様....可哀想に...)」

「(ニジヘビ様は少々、加虐的な思想の持ち主でもあります....その様なご反応を取られてしまうと...)」


「そんなに見られたくないのか....」

「ならば是非とも見てみたいものだな」


「(火が着いてしまわれますよ)」



ニジヘビは僅かに嬉しそうな顔をしながらゆっくりと、1歩1歩コシュへと歩みを進める。



「やめて下さいっ....!!」

「それ以上近づくと...暴れますよ!!」



コシュの正面以外の道は塞がれている、ニジヘビに捕まらず正面突破することがこの状況から抜け出す唯一の方法だったのだ。


コシュは出来る限りの最初速で走り出す為の構えを取った。ニジヘビに警告したのもこの為だろう。


しかしニジヘビの歩みは止まることはなかった。

ニジヘビにも確固たる勝算があったのだ。



「その足でどこに行こうと言うのか」


「なっ....!?何っ....これっ...!?」



地面から生えてきた虹色の縄....というより、蛇のような生物がコシュの足首を縛り上げていた。



「ひっ....!?」



気が付けばコシュは、自分の懐への接近を許してしまったのだ



「さぁ観念しろ...見させてもらおうか」

「青い炎の正体を!」



ニジヘビがコシュの閉じられた襟をグイッと引っ張て開くと、中からは酷く赤面した少女の顔が現れた



「ひえぇぇぇ〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!」



直後、とてつもなく情けない悲鳴が森に響き渡った。









「なんだ...普通の顔じゃないか。期待して損した」


「はぅぅ.......なんなんですかぁ.....」



コシュは今にも泣き出しそうな顔で、弱々しい声を発した。



「そんな顔を見られて何の問題があるんだ」


「う...顔を見られるのはまだ慣れてなくって...恥ずかしいんです...」


「フレンズ化前が首無しの馬だとそうなるのか」


「へっ....? な、なぜ私の元の姿を知ってるんですか...?」


「ニジヘビ様は、この世界の全ての生命をお作りなさったのですよ。」


「世界の全ての生命...?」


「いかにも。私の凄さがようやく分かったか」

「自分で作ったものを全て記憶するのは当然だ。お前の体の特徴、弱点、生態、全てを知っている」


「(凄いけど....ほんとかなぁ...)」


「...ところで聞いていなかったが首無し馬、お前はこの森で何をしているんだ」


「えっ....えっと....」

「私のことを知っているなら分かると思いますが...私には主様がいるんです」


「主...あの騎士のことか?」


「! はい...!」

「大切な人なのでしたが...この姿になってはぐれてしまい....」

「あっ、あの....私に会う前に主様を見かけませんでしたか?」


「ふむ、見なかったな。」


「ですが、コシュタ・バワー様。ご心配要りません。」

「主様を探す必要はありませんよ」


「...? それはどういう...?」


「私と共に、ニジヘビ様に仕える身となりませんか?」


「え...?」


「私もこの姿になり、コシュタ・バワー様のように主を失い彷徨い続けていた所...」

「『私はこの世界の王だ、今すぐ私に付いてこい』と、ニジヘビ様が突然私の前に現れて一言だけ声を掛けて下さいました。」

「私はその時、感激のあまりに涙を流してしまいました....世界の王が直々に私を迎え入れて頂くなんて...と」

「当然私はニジヘビ様を主とし、今ここにいるのですよ。」


「えっ....その一言だけで決めたんですか...?」


「? はい。世界の王と仰られたのなら、それ以上の言葉は必要ありませんでしたよ?」


「(何も疑わないの...???)」


「ニジヘビ様は本当に素晴らしいお方です....天候を思いのままに操作出来たり、その気になれば世界の生命の数を一瞬で半分にする事が出来たり...」

「これ程、主として相応しいお方はございません」


「(絶対嘘でしょ...このフレンズさんはマトモだと思ってたけどそうでもないの....!?)」


「それもそうだな。首無しの馬、主を変える気はないか」


「う...ごめんなさい...私には主様しかいないのです...」


「残念だな、私達とお前の目的はほとんど同じだというのに」


「目的が同じ...? あなたも私の主様を?」


「ああ。さっき見たと思うが....そこのファリはセルリアンから酒を作り出す能力を持っている」

「この森にいる大型セルリアンから採れるものを、1度味わってみたくてな」


「....それって...」


「ああ、お前が探しているものだろう?」


「...っ!違いますっ! まだセルリアンと決まった訳ではっ...」


「『首から上が無い騎士のような姿をした危険なセルリアンがこの森に出現している』という噂は随分前から流れている。それを聞いて入ったんだろう」


「は...はい....」

「でも、主様はきっとここに居ます!」


「そうか、まあ勝手にしてくれ」

「私たちはそれを狩る為に来てるのだからな」


「そっ...そんなっ...! 主様にそんなことは...」


「ただのセルリアンだったらどうする」

「お前はそれに喰われて幸せなのか?」


「そっ...それは....」



コシュは言葉に詰まった。

「(本当にセルリアンだったら...)」

「(いえ、そんなことは絶対に無い....!)」



「....はっ!!」



コシュは未来に怒る危険を察知した。




「みっ、皆さん走りましょう! ここは危ないです!」


「なんだと? なぜ分かる、首無し馬」

「いや、まさか...」

「お前、未来が見えるのか?」


「は、はい....」


「なんと....頼もしい能力ですね!ところでどのような未来がお見えになられたのでしょう?」


「その....さっきニジヘビさんが座ってたあの大岩、あれが崩れ落ちて転がって来るんですよ!」


「ああ、やはり...」

「未来が見えてしまうのだな...」

「なんと....」



「なんと下らん能力か!!!」


「「ええっ!?」」


「私はこれから起こる事を先に他人にバラされてしまうことが1番嫌いなんだ!!」


「っ! そうでした...私とした事が...申し訳ございません...!!」


「今すぐその能力を封印しろ!」


「そんな無茶な....っていうか、逃げないと、し、死んじゃいますよ!?」


「ふむそれは困る。だが1つ問題がある」



「走りたくない」



「はぁ!? そんな事言ってる場合じゃ....」


「肉体を動かすことは私にとっては最も過酷な行為だ、そもそも体なんか動かす必要は私にはないのだが」


「それじゃあぺしゃんこに...」


「私が肉体を酷使しなくてはならない状況は存在しない。世界はそういう風に作られている」

「現に首無し馬、お前と私はこうして出会った」

「あの重い鎧の騎士に仕えていたのだろう、フレンズの1人や2人乗せて走るのも朝飯前じゃないか?」


「うっ...確かに可能ですが...」

「ごめんなさい、主様以外は乗せてはいけないんです....」


「そうか、ならば私が今からお前の主だ」


「な...何を言って...さっき断ったばかりじゃないですか....?」


「さっきのは提案に過ぎない、これは命令だ」


「なんて自分勝手な...」


「はぁ...面倒だから報酬を付けてやろう。私を助けたら騎士について教えてやる、さあ乗せろ」


「そんな...ズルいです...!!」

「うぅ.....分かりましたよっ!!乗せて逃げますっ!でも主は乗り換えませんからねっ!!」


ニジヘビは長い尻尾をコシュの体に巻き付けて体を固定した。ファリニシュもその上にしがみつき、準備は整った


「コシュタ・バワー様、2人も乗せて本当に大丈夫なんですか....?」


「問題ありませんよ....しっかり捕まってて下さい!全速力で行きます!」


「コシュタ・バワー様!大岩が直進してきます!」


「あのスピード...直線勝負じゃ追いつかれる」

「少し遅らせてやろう」


ニジヘビは地面から七色の柱を出した

しかし転がる大岩はそれを繊細な動きで全て避けた。

「....む?」


「あの岩は止められませんっ!」


「ならばあの岩の進行方向から外れれば...」



木に囲まれた一本道の向こうに、曲がり角が見えた。



「曲がります!振り落とされないで下さいよ!」



直角に急旋回したコシュは、大岩の進行方向から外れた。



直進してきた大岩は木と衝突し停止した...が、また動き出し、こちらを追いかけて向かって来る。



「!? コシュタ・バワー様!大岩も私達と同じ方向に転がって参りました!」


「よほど私達を仕留めたいらしいな。ファリ、お前石に何か恨みでも買ったか?」


「ええと....そういえばこの前、石を煮込んだら宝石になるとの話を聞いて山盛りの石を数百時間程煮込んだ事が...」


「呑気な会話してる場合ですか!?」


「(大岩が私たちを追ってくるのも知ってます...言ったらなんか怒られそうだし....)」

「(どうにかしてこの岩を撒かなきゃ...)」


「(...! あの崖の向こうなら岩も追ってこれないかも....)」


「てやぁっっ!!!」



コシュは断崖の向こう岸へ跳躍した。


跳躍は向こう岸へ届き、大岩は奈落に落ちて行った。



「ふう...なんとか逃げれましたね...」


「助かりました...それにしてもコシュタ・バワー様、お強いのですね....!私達2人を乗せて走っても全く疲れた様子が見られません」


「あっ...ありがとうございます...それと、コシュでいいですよ....」

「っていうかそんなキラキラした目で見つめないで....」


「奇妙な岩だったな、まるで生きているかの様だった」


「ここが常識の通じる場所なら、立ち入り禁止区域に指定されていませんよ....この森は侵入者をあらゆる手で排除しようとするんです」

「ですから....その.....私の様な能力を持ってないと危険なんですよ!」


「関係ないな、その能力は嫌いだ」


「訳わかんない....はっ!」

「そっ、そうだ!忘れたとは言わせませんよ!」

「主様について教えて貰います!」


「ああ、そうだったな」

「お前の騎士は....」



ニジヘビが語り出すのを遮るように、衝撃波の様なものがコシュと2人の間を通り抜けた


直後、崖の先端が鋭い刃物で切り裂かれたかの様に、綺麗に離れた。

崖に近い位置に立っていたニジヘビは分断された崖と共に奈落へ落ちて行った。ニジヘビより後ろに立っていたファリニシュは言うまでもなく....



「ニジヘビさん!?ファリニシュさん!?」


「(崖ごと切り離して奈落に落とした....私の能力は直接的なダメージにしか反応できない)」

「(こればかりは予知できない...なんて運の悪い...)」

「(いえ...まさか、私の能力を知っている...?)」

「(だとしたら....)」



森の奥から、ガチャリ ガチャリと聞き慣れた金属音が、そしてその音に似つかわしい姿をした金属塊の姿が共にはっきり分かるようになってくる



「....やはり、貴方でしたか...」

「探しましたよ...主様...!!」

「私は、もう一度貴方と共に...」



近づくにつれてその金属塊の細部が分かるようになって来た。


それは、金属というよりはあまりに光沢が汚かった。


というより、光沢に見えたものは、大きな目だった。

その外見から分かる特徴は、セルリアンそのものであった。



「そんな....セルリアン....」



鎧のセルリアンは手に持った大剣を水平に構え、力強く薙ぎ払った。



「ああっっ!」



剣から放たれた、先程崖を切り裂いて見せたような衝撃がコシュを大きく吹き飛ばした。



「う...うう.....」


「...!!」


「(見える...これから私はあの大剣で殺される...)」

「(さっきも避けられたはずなのに...体が動かない...)」

「(剣の構え方、鎧の音...どうしてあのセルリアン)」


「(主様と全く同じなの...?)」



無慈悲に振りかぶられた大剣は、コシュ目掛けて真っ直ぐ振り下ろされる



「(もうダメ...!!!)」




ギィィイイン!!!




大剣がコシュに届く数秒前、七色の鱗のような障壁が振り下ろした大剣を弾いた。


ややご機嫌斜めな様子の神様が、後ろから下駄を鳴らしながら歩いてきた。




「舐められたものだ。たかが崖から落とす程度で私を仕留められると思ったのなら....」

「戦士としてはド三流だな」



「なっ....!? ニジヘビさん!?」


「なんだ、お前も私がやられたと思ったのか。揃いも揃って阿呆ばかりだなここは」


「最初に出会った時と同じ....私が見た未来では私はここで殺されるはずなのに...」

「未来とは違う事実が起こる.....どうして.....?」


「まだそんな下らんものに縛られているのか」

「いいか。運命だの未来だの、私には無縁な言葉だ」

「世界さえ私に服従する。それが私だ。」


「早く立て、まさか死ぬつもりだったなんて言うなよ」


「むっ....そんなつもりありませんよ!!」

「まだ戦えます、主様を真似る輩にはただでは済ませません...!」



「(.....!!!)」

鎧のセルリアンが剣を掲げると地面から無数の小さいセルリアンが湧き出て、コシュとニジヘビは瞬く間に囲まれてしまった



「面倒な真似を...」


「ところで...ファリニシュさんはどうしました?」


「ああ」



小さいセルリアンが6体程同時に、列を成して襲いかかった。



同時に、セルリアン以外の何かも飛び出し、襲いかかったセルリアンをしなやかな動きで全て屠り去った。



「遅くなりました」


「ファリニシュさん!」


「おや、あれがこの森の支配者とやらですか...」

「ですが少々、周りが騒がしいですね」


「ニジヘビ様、コシュ様。周りの小さいセルリアンはどうか私にお任せを。お2人があちらに集中出来る場に整えます」


「ああ、頼んだぞ」



ファリニシュは任せられると、グラスと材料を取り出して何かを作り始めた。



「(この程度のサイズのみに反応する度数で...)」



ファリニシュが慎重に材料を混ぜた後、酒を作り出した時と同じように息を吹きかけ、今度は濁った液体が作られた


その液体を円を描くように地面に振り撒いた



「くれぐれも、お2人の邪魔はなさらぬように...」

「アペロ(食前酒)にもならない駄物には、早急にご退室させて頂きます。」



周りの小さいセルリアンは、ファリニシュの方向へ意識を向けた



「何...!? セルリアンが全てファリニシュさんに...!?」


「面白い力だろう」

「ファリはセルリアンを引きつける液体を作り出すことが出来る」


「でも、全員からの標的にされるんじゃ...」


「心配要らん、この程度を捌き切れんようじゃ私の世話役は務まらない」



セルリアンの群が、ファリニシュの方向へ向かって行った。ファリニシュは顔色1つ変えることなく待ち構え...



「ご心配はいりません」

「私ついこの前、"ビームの撃ち方"とやらの講座を見たのです。今こそ試し時でしょう」



そう語るとファリニシュは両手を腰に溜め...

襲いかかるセルリアンに勢い良く突き出した。



「波ァアァァァァァァ!!!!!」



当然ビームは出ず、ただの強力な両手の掌底撃ちとなりセルリアンを吹き飛ばした。



「なるほど。これは.....」

「見えないビームですね....!」



ファリニシュは八方から襲いかかるセルリアンを次々と掌底....もとい見えないビームで破壊していった。



「あの数を相手にするなんて、凄い...なんか変な動きだけど...」


「言っただろう、心配は要らん。私たちはあれに集中していればいい」



ニジヘビはコシュの前にレールを作り出した



「援護はしてやる、行ってこい」


「はい!」



レールは鎧のセルリアンの頭上へ伸びて行った、もう少しでコシュの間合いにレールが到達するところ...


鎧のセルリアンはレールを切り落とした



「うわわっ!?」



勢いが乗っていたコシュはレールから投げ出され、進行方向へ吹き飛んで行った。



「ふむ、馬鹿ではないようだ」



ニジヘビは地面から無数の輝く蛇のような生物を生み出し、鎧のセルリアンに向かって放った。

しかし鎧のセルリアンはレールを切り落としたのと同様に、無数の蛇も全て切り落とした。


流れるような動作で大剣を構え直し、ニジヘビに向かって振り下ろした。

先程崖を落とした時よりも数倍大きい衝撃波が大剣から放たれた。


すかさずニジヘビは周りの障壁を前方に集中させ、衝撃波を食い止めた。が...



「......?」


「随分と見掛け倒しな攻撃だな」

「崖を切り落とす程の威力があるとは思えないが」



実際その威力は大きさとは裏腹に、障壁を前方に集中させなくとも十分に受け止め切れる威力だった。



「...!」



悪い予感が浮かんだ。



「待て...奴は何処に行った?」

「(まさか...)」



予感の通り、鎧のセルリアンは衝撃波を布石にしてニジヘビの裏側へと回っていた。



「....やはりか」



大剣は既に振り下ろされ、ニジヘビでは回避も防御も間に合わなかった。




「ぐっあッッ....!?」





それまで無表情だったニジヘビが顔を歪め、苦悶の声を上げた。


しかしそれは斬撃ではなく、横から突っ込んできた青い炎に撥ね飛ばされたことによるものだった。


ニジヘビは吹き飛び、何とか斬撃から逃れた。が.....



「ま...間に合った...大丈夫ですか?」


「ごふっ.....こっ....こんの脳筋荒馬が......!!!!」



コシュの豪速球のタックルは、フィジカルの弱いニジヘビをここまで悶絶させるには十分すぎる威力だった。



「あわわ...!!ごっ...ごめんなさい....!!!そんなつもりじゃ....」


「ぐ....しかしまあ首を切り落とされるよりかは幾分かマシだ」

「助かった、もう二度とやるな」


「感謝されてるのか叱られてるのか分からないですぅ!」


「いいか首無し馬、私がどうにか動きを止める。その間に叩け」



ニジヘビは先程と同じ様に地面から無数の蛇を鎧のセルリアンへ飛ばした。



「(生半端な威力では手数で攻めても弾かれる、ならば....)」



飛ばした蛇が鎧のセルリアンに届く前、蛇は融合し1つの大きな大蛇へと変化した


大蛇は鎧のセルリアンの後ろに回り込んだ。鎧のセルリアンは蛇の切断を試みたが、融合により強度が増した蛇は大剣を弾いた。

そのままもう半周回り込み、鎧のセルリアンを縛り上げた。



「早くやれ!」


「はいっ!!」



コシュが鎧を叩こうと接近したところ

手から離れた大剣が紫色の光を放ちながら浮遊し、行く手を阻むように高速で鎧のセルリアンの周りを動き続けいる。



「...! これじゃ...近づけません...!!」


「高速で動いて的が絞れない....直接縛り上げるのは難しいな」


鎧のセルリアンはその間に大蛇の拘束を解こうと暴れ始めた。


「馬鹿力が.....首のない奴は脳筋しかいないのか」

「こっちは長くは持たないぞ!何とかしろ!」


「そっ...そう言われても....」


「皆様、私にお任せ下さい」



雑魚を片付けたファリニシュが戻ってきた。ファリニシュはどこからか作り出した酒樽を真上に投擲した。


真上に舞った酒樽はそのまま真下へ降下し....


ファリニシュと衝突して内蔵された液体を全て浴びた。


バッッシャァァアアアア!!!



「なっ、何してるんですかぁっ!?!?」


「私が以前読んだとある漫画で、兵士が闘いの前にお酒を浴びているのを真似いたしました」



酒に浸ったファリニシュが得意げな表情で語った。



「浴びすぎだな」


「あなたもうそういうの見ない方がいいんじゃないですか!?」


「ともかくコシュ様、剣はお任せを!」


「それはセルリアンを引き付ける酒だな、囮になるつもりか?」


「はい....私が宴会の余興の為に鍛えました真剣白刃取り、お見せ致しましょう!」


「そ...そんな無茶な!!」


「成し遂げて見せますとも、ニジヘビ様との練習では百発百中だったのですよ」

「さあ...待ったナシでございます、いざっ!!」



浮遊する大剣は酒を浴びたファリニシュに惹き付けられ、高速で回転しながら接近する。

ファリニシュの両手は大剣の刃を挟み....


ガキィィィン!!!


大剣はファリニシュの両手で止まっている。



「嘘っ!? 成功した!?」



大剣はファリニシュの両手に当たる寸前に、蛇に縛り上げられていた。



「あれは振り手が寸止めしている、お前に白刃取りの実力がある訳では無い」

「だがその素直さはお前のいい所でもある...お陰で的が絞れた」



「よし...これならっ!」



コシュが大きく跳躍し、最高点に達した後に片足を高く上げながら一気に降下する。


それと同時に、コシュの片足は7色の光を纏い始めた。



「ぶった斬れ、コシュタ・バワー」



落下を生かした強烈なカカト落としが、鎧のセルリアンを叩いた。


まるで何かを剣で切り裂いたかのような音と共に、鎧のセルリアンは真っ二つに切り分けて崩れ落ちていく。


やがて崩れ落ちた鎧は光を放ち、次々と消滅し始める。

不思議とこの森の薄暗い空気が抜け、陽の差す穏やかな森林へ変わっていった。


森の脅威は去った。しかし....



「主様....」



少なからず望んだ結果ではなかったコシュは、落胆しその場に座り込んだ。



「コシュ様、どうか気を落とさずに...」

「お酒がもうすぐで完成致します。いかがです」


「...ありがとうございます。でも、いいです...」


「そう仰らずに、コシュ様には是非とも味わって頂きたいものが出来上がるのですよ」


「んん....そこまで言うなら....」



コシュはマントの前を開き、セルリアンの破片が混ざった液体が入ったグラスを受け取った。


破片が溶けていき、液体は徐々に透き通った赤色をするようになった



「コシュ様との出会いに、私達の勝利に。今日はこの真紅に輝く聖酒をもってお祝いと致しましょう」


「んぐっ....ぐっ...」



コシュはグラスを口に運び、聖酒を飲んだ。



「(....なんだか懐かしい味...)」


「....ぐすっ...」

「ぐすっ....うわぁぁぁん....!!!」



コシュは泣き出してしまった。



「泣くほど美味いのか」


「ええ。故郷の味を超えるものはございません」

「そういったものは、口ではなく心で味わうものですから」


「成程。私が飲んでも特別には感じないだろうな」



コシュはしばらくファリニシュになだめられていた...





「落ち着きましたか?」


「....はい」


「これからコシュ様はどうされるのですか?」


「.....」



あの赤い聖酒を飲んで、コシュは確信していた。

あのセルリアンは、コシュの主そのものだったのだ。

それが何らかの理由でセルリアンに変えられ、ここで散った。

コシュは主を完全に失ったのだ。



「....ニジヘビさん」

「私も一緒についていってもいいですか?」


「くくっ、気が変わったか?いいだろう」


「この森に縛られず、もっと....自由に世界を旅してみてもいいかなって思ったんです」

「主様も、きっとそれを望んでいるんだと思います」


「理由などどうでもいい」

「私を退屈させてくれるなよ?首無し馬」


「歓迎致します、コシュ様!」


「....お前は1回体を洗ってこい。酒樽まるごと浴びたままだろ」


「こっ....これは飛んだご無礼を!」

「執事たる者、己の身だしなみに気を配れぬとは何たる不覚....!」

「こういう時にはケジメとして腹を切ることが主流だととあるお方から.....」


「ああ面倒臭い!そこで待ってろ!」


ニジヘビが手を掲げると、それまでの快晴が一変して重い雨雲で覆われた。


「へっ...!? ニジヘビさん、天候も操れるんですか!?」


「当たり前だろう」


「初めて凄いと思ったかも...」


「初めてってなんだ、失礼な奴だ」


あっという間に周囲の天候は豪雨となり、

3人は非常に激しい雨風に晒された。


「ふう...お心遣い感謝致します...」


「ちょっ...強すぎませんかっ!?」


「なんだ、これくらいも雨風にも耐えれんのか」


「いえ...ごめんなさい...私、水も苦手なんです...」

「もう少し弱くしてくれたら助かりますぅ...」


「つくづく不便そうな体だな、顔を見られるのも水に触れるのも嫌だとは」


「うぅ...そんなこと言われても仕方ないじゃないですかぁ...」


「....おや?何か聞こえませんか?」


「...? いえ、雨音以外何も聞こえませんよ...?」

「...はっ!?」


未来視が、とんでもない未来をコシュに告げた。


「みっ....皆さん!土砂崩れです!!」


「まーたその能力か! いい加減頭に来たぞ!!」


「むっ!そもそもこうなるのは考えれば分かるでしょう!?いくらなんでも雨が強すぎますっ!!」


「お前、私がバカだと言いたいのか!?」


「まっ...まぁまぁお2人とも、おバカさんによく効くお酒も今お作りできますので...」


「余計なお世話だ!!!」


「どっ...どうするんですか!?流石に私でも走って間に合いませんよ!?」

「ニジヘビさんの責任ですっ!なんとかして下さいっ!!」


「ニジヘビ様、ここは雨乞いの舞でこの雨風を鎮めましょう、さあご一緒に!やぁ〜れんそぉーらんそぉーらん!!!」


「ええい黙ってろ!....蛇神の力を見せてやる...!!!」



ニジヘビが両手を大きく広げると周囲の天候が更に悪化し、雨も風も大災害規模へと発達した。



「吹き飛ばせッッ!!!!」



突風が周囲に吹き荒み、3人は風で天高く飛ばされた。


「ひゃああああああっっ!?!?」


「なんと...!! コシュ様、私達はもしや空を飛んでいるのですか!?」


「とっ、飛んでません!落ちてますっ!!どうやって着地するんですかこれっ!?」



ニジヘビは開いた傘をパラシュートの要領で使い、緩やかに落下していった。



「私は問題ない。お前らは頑張って着地してくれ」


「ええええっっっ!!!?」




ザッパーーーーン!!!



コシュとファリニシュは幸いにも湖に落下した。



「ごボバッ!!ごボボ!!ファリニシュさっ...!!!助けっ...!!!」


「今お助けに参ります! ......はい、これでどうでしょう?」


空の酒樽がコシュの腰を持ち上げ、なんとか溺れずに済んだ。



「はぁ....はぁ....ふぅ....助かりました。早く上がりましょう...」


ファリニシュに連れていかれ湖岸へ辿り着いた2人、そこにはニジヘビが待っていた。


「おお生きてたか。ご苦労」


「なっ...なんてことするんですかっ....死ぬところだったんですよ...!?」


「お前は今生きているだろ。何か問題あるか?」


「もうっ....」


「それより、あれを見てみろ」


「....!!」



いつの間にか豪雨は快晴に戻り、森に漂う邪気を浄化するように森に大きな虹が架かっていた。



「わぁ......綺麗....」


「そうだろう」

「お前があの森にいたままだったら、見れなかった景色だ」


「素敵ですね....でも、誰かさんの土砂崩れ跡が目立ちます」


「はぁ...空気の読めん奴だな」


「貴方が言うんですか...」



双方は互いに呆れ返った。2人の思想はとことん相容れないようだ。


方や赤髪の執事といえば...



「みっ....皆様!早くあの虹へ向かいましょう!!」

「虹の根元には偉大なる大秘宝が埋まっているとの話を聞いた事があり...」


「そんなものはない。どこまでお前の知識は歪んでいるんだ」


「つい前私...漫画が主体の図書館に言って参りまして、そこには大変素晴らしい情報ばかりが並んでおりました。」


「特にあの『超能力バトル漫画』という本。読み終えた後、生命エネルギーが私にもだんだんと見えてくるように...」


「あの漫画喫茶か...連れていくべきでは無かったな」


「ファリニシュさん....もう少し疑った方が....」


「確かに主人公は初めは普通の人間であり、超能力についても疑っていましたが」

「その主人公の師匠に当たる人物が『これは本当だ。お前の中に超能力が宿っている』と仰られたのです。」

「ですから、疑う必要もなく本物です!」


「でっ...ですから、それを疑って欲しくて.....」

「いや、言ってもキリがなさそうですね....」



彼女の行動にも、互いの理解が到達するには程遠いことだろう。


「まあものは試しか。あの虹...片方は森から発生しているがもう片方の発生源は山の向こうだ」

「あれに向かって進むとしよう」


「....ニジヘビさんも意外と信じるタイプなんですね?」


「まあ...虹とは何かと縁があるからな」

「馬車よ、私達を乗せていけ。私はもう疲れた」


「馬車じゃないですぅ!やむを得ない場合以外は乗せたくないです!」


「仕方ない、今日はここで休む」

「あの虹も当分消えるつもりは無さそうだしな」


「宴会の準備だ。私は結局あの酒を飲めなかったのだからな」


「...なんか、すいませんね...」


「その代わり、とびきり美味いのを頼むぞ」

「語る相手が多ければ多いほど退屈はしないものだ」


「ふふっ...かしこまりました。準備を進めて参りますね」



傲慢な神と変人執事と小さな騎士。価値観や理念のほとんどが相反する3人だが、彼女らはだからこそ惹かれあったのかもしれない。


今もどこかで混沌めいた珍道中を繰り広げていることだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ばけもの珍道中 @Onlyone00001

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る