最終話
「どういうこと?」
カンナの声が、本当に尋ねているようだったので、ゼラは考えながら話した。
「私は、ゴミを片付けることで……あの町で生活している人たちが喜んでくれるのが嬉しかった」
「へぇ……!」
カンナは感嘆するような声を上げる。
「そう……私はあの人たちが喜んでくれるのが嬉しかった。それが懸命に片付ける原動力にもなった」
カンナはゼラの言葉ににやりと笑う。
しかし、それゼラには見えておらず、彼女は言葉を続けた。
「だから、だからこそ許せない……! そうだ、だから私はゴミを出して片付けない奴らが許せないのだ! そんな奴らに制裁を加えて何が悪い。痛い目に合わせなくては……私はそう思う」
ゼラがふっと笑うと、今度はカンナが話し始めた。
「……所長はさ、ロボットの研究もしていてね。感情を持たせることに
ゼラは眉を寄せる。
「……どういうことだ」
「最初はさ、あのゴミ溜めがきれいになっていくのを見て、やりがいを感じられるようにしたんだけど、間違った方向へ行ってしまった。これは所長を含め、ぼくたちの失態。でも、どうせ国の方でもみ消しにされるだろうけど」
カンナはゆっくりと歩き始め、ゼラに近づいていく。しかし、静かに歩いているせいか、ゼラは気づいていない。
「……」
「一つだけ、お礼を言っておくよ。ゴミ溜め、きれいにしてくれてありがとね」
カンナの上っ面だけの言葉に、ゼラは苛立って言い返した。
「きれいにはなっていない! 私はもう一度あそこへ戻って、片付けを再開するんだ!」
「お姉さんはそう思うかもしれないけど、もう時間切れだよ。ぼくは、あなたを抹消するのが仕事だからね」
その瞬間、カンナは廊下の角を曲がったところに座っていたゼラの前に姿を現す。
「はっ⁉」
ゼラは急いで立ち上がり、そこから逃げようとする。
しかし、カンナは既に銃を構えていた。
「さようなら」
バンッ!
「くっ……!」
弾はゼラの太ももに直撃する。彼女は衝撃と痛みのために一度倒れ込んだが、何とか再び立ち上がろうとする。
そのとき、ふとカンナはあることを思い出しゼラに語りかけるように言った。
「そう言えば、お姉さんの名前の由来、ミネコさんから聞いたんだった。頼まれたから、話しておくね」
しかし、その背にカンナは容赦なく弾を放つ。
バンッ!
「うわっ……、ぐっ!」
ゼラは必至でその場から離れようと試みる。しかし、もう手遅れだ。
カンナは
バンッ!
「『ゼラ』という名前は、ゼラニウムっていう花の名からとったらしいよ。色はピンク。だから花言葉は『決意』——」
放たれた弾全てがゼラに命中し、その場所は血の独特なかおりが充満する。しかし、カンナは気にする風もなく、残っていた最後の一発を打ち放った。
バンッ!
「――ああ、もう聞こえてないかな。でも、一応伝えておくね。多分所長は君に自分の決意を託したんだろうって、ミネコさんは言ってた。何の決意なのかは、ぼくにははかりしれないけどさ」
**********
その後、ゼラのことは研究者と政府の関係者によって内々に処理された。
あの町の住民は、暫くゼラのことを気にしていたが、彼女がどうなったのか本当のことを知る人は誰もいない。時折、風の便り程度に、信憑性のない物語が語り継がれた。例えばゼラは「貧乏神だった」とか「人造人間だった」とか。しかしそれを真実と思う者もいなかった。
そのうちに、ゼラのことは皆忘れて行った。所長がここの住人に対して、何か細工をしたのかもしれない。
しかし、知らなくていいことである。
心のどこかに穴があるように思えても、それがゼラを忘れたことによるものとは分からぬままなのだから。
そして、今もあの更地にはゴミが溜まり続けている。
(完)
ゴミ溜めに咲く一輪の花 彩霞 @Pleiades_Yuri
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