ぶつかる。

 跳ね返る。

 転がる。


「おまえばかじゃねえの?」


 ひと。男のひと。


「自分から轢かれに行くばかがどこにいるってんだよ。死ぬ気か?」


 生きてる。

 わたしも。

 このひとも。


「いきてる」


「生きてるよ。あぶねえあぶねえ。ほら立てるか。というか立て。俺はここにいるとまずいんだ」


 促されて立ち上がる。


「あ?」


 あれ。


「なんだおまえ」


「覚えて、ませんか?」


 そっか。予知夢だから。

 わたしは知ってても、このひとはわたしを知らないのか。


「あの。初めまして」


「そういうのいいから。あの。手を離してくんねえかな。逃げられないんだけど」


 逃がさない。


「あなたが生きていてくれて、嬉しいです」


「さっきおまえ車に突っ込んでいったくせに何言ってんだ」


 よかった。仲良くなれそう。

 とりあえず、手を握ったまま、その場を後にした。

 握っていた手が、ちょっと、震えてた。


「まだ、死にたいですか?」


「なんで?」


 なぜ知ってるか、という問いかけ。


「まだ、死にたいですか?」


「死にたいよ。できれば、なるべく、はやく」


「そうですか」


 無理か。そりゃそうか。初対面だし。でもまずは、仲良くなるところから。

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ただの予知夢 春嵐 @aiot3110

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