第30話 神崎塔矢

「えっ?マジ?」


未だ大雨が降り注ぎ、ザーザーと鳴り響いている所にそんな呑気な声が響いてきた。


「え?」


まさか反応があるとは思わなかったのだろう。

セリアは涙ながらに辺りを見渡す。


次の瞬間、ずぶずぶと泥に足を踏み入れた時のような音と共に、空中に黒い丸が現れた。

そしてその黒い丸の中からゆっくりと一人の男が現れる。


髪は霞んだ金髪に耳にピアスをしており、身なりはセリア達とは違ってかなり清潔だった。

しかも驚くべきことに、この大嵐の中、その男の服は少しも慣れた様子がなく、また雨具も着ていない。


「こんにちは〜」


その男はこの場に似合わないほどチャラい感じで女の子に話しかける。


「あっ……神様……」


セリアがこのタイミングで現れたその男を神様と勘違いしてしまうのは仕方のない話であろう。

だが、金髪の少年は笑って否定する。


「え〜、さっきのは冗談だよ〜、あっはっはっは

!」

「あ、あの……」

「ああ、ごめんごめん。妹さんだったね。オーケーオーケー」


笑う少年にセリアは勇気を出して話を促す。

すると少年は謝りながら空中に手をかざすと、先程の音と共に黒い穴ができる。

そこから数人の男女がボトリボトリと落ちてきた。


「リオナ!」


その中に津波に飲み込まれたはずのリオナもいた。

周りでその様子を見ていた同じ漁村の村人達も見捨ててきた家族が戻ってきたことに驚き、近付いてくる。


「リオナ!リオナ!」


セリアが何度か呼び掛けるとリオナがゆっくりと目を開ける。


「おねえ……ちゃん?」

「ああ、リオナ!」


リオナが生きていることに喜んだセリアはリオナを抱きしめ、それから謎の少年の方を見て感謝を述べる。


「妹を助けてくださってありがとうございます!」

「いやいやこれくらいは大したことじゃないよ〜。そんなことより……」


そういうと少年は一気にセリアに顔を近づける。


「さっき言っていたこと、マジ?」


ニヤニヤしながらセリアの目を覗きながら聞く。


「さっき言っていたこと?」

「何でもするってやつ」

「あ……」


勢いで言ってしまったことだ。

そこを追及されると少し困ってしまう。

それを感じたのだろう。

少年は笑いながら手を振る。


「ああ冗談冗談。そんなゲスい事はやらないさ。人助けに見返りを求めるときりがなくなるからね」

「そ、そうですか……助けてもらったのにごめんなさい」

「いいっていいって。本気で言ったわけじゃないから。それよりも君達、これからどうすんの?」

「あ……」


少年の視線の先には水の底に沈んだ村があった。

例え水が抜けても、粉々になった家々は戻らない。

セリアはこれから先の未来を憂いて悲痛な顔をする。

その顔を見て少年は口を開く。


「俺が手伝ってやってもいいぜ。資材を運んだり食料の運搬くらいはしてやってもいい」

「ほ、本当ですか?」

「ああ。だけどタダじゃない。さっきまでは単なる人助け。今からは依頼による仕事だからね。対価を要求するよ」

「え……、でも、もう私達に払えるものなんて……」

「あるだろ?ここに君が」

「え?」

「異世界の女も悪くないって俺は思うんだよね〜」

「あ……」


少年のその言葉に、セリアは少年がこれから何をしようとしているのかを理解する。


「で、どうする?俺の力、借りる?借りない?」

「……お、お願いします!」


セリアは少し考えたが、自分の体で村を救ってくれるならと頷く。


「よし、これで契約は完了だ。んじゃ先ずは自己紹介をしようか。俺の名前は神崎塔矢。能力はディメンジョン・ゲート。友人を探して世界を回る旅人だ」




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もしも超能力者が異世界の魔法学校に通ったら @kiriti

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