第2話 狩り

 ルトさんに助けてもらった日から1週間ほど経った。ずっとタダ飯を食らうのも良く無いと思い、俺は家事の手伝いをしていた。ふと彼女の方を見ると、大量の荷物を両手に抱えていた。


「あ、ルトさん、それ運ぶの手伝いますよ。」


「いや!これは大丈夫です、すごく重たいので!」


「重たいのなら尚更手伝いますよ、元いた世界で力仕事も結構してたし大丈夫です!」


「そう、なんですか?じゃあお言葉に甘えようかな…、でも本当に重たいので、気をつけてくださいね?」


(そんなに重たいのか?…いや、それなら1人で持ち上げることすらできないだろうし、きっと心配してくれてるだけだろうな。)


 そう思い、彼女が持っている荷物を受け取った瞬間、


「おわっ!!」


 ドンッと鈍い音を立てて後ろに倒れてしまった。


(なんだ?重すぎるだろ、なにが入ってるんだ、これ…?)


「大丈夫ですか?!」


「だ、大丈夫です、ちょっと想像より重くてびっくりしただけなんで!」


 そう言って、落ちた荷物を持ち上げたが、重さでまたよろけそうになった。こんなにも重たいものを全部1人で持っていたなんて信じられない。もしかしたらこの世界の人たちは、俺が元いた世界の人たちより力が強いのだろうか、と考えているうちに荷物を置く場所に着いたようだった。


「ここに置いてもらえますか?」


「わかりました。」


 腕や脚を少し震えさせながら、言われた場所に荷物を置いた。


「ありがとうございます、すみません、重かったですよね。」


「まぁ…、はい…。」


 つい苦笑いしながら返事をしてしまった。全然大丈夫、と言いたいところだったが、目の前であれだけ盛大に倒れておいて嘘はつけない。というか、正直に答えるしかなかった、という表現が正しいだろう。


「あの、これ何が入ってるんですか?」


「数日分の食料とか日用品、趣味で使う道具ですよ。」


 つい気になって質問してしまった。買い溜めするタイプなんだろうか、それにしてもやり過ぎだろ、と言いそうになったが、必死で言葉を飲み込んだ。


「なるほど…、そういえば、趣味ってどんなことを?」


「…狩りです。」


 少し間を空けてから、彼女は笑顔で答えた。こんなに穏やかな人が狩りをするなんて全く想像がつかない。人は見た目によらないということか。


「さ!ユキトさん疲れましたよね、お風呂先入ってください!」


「え、いいんですか?」


「もちろん!」


 俺は彼女の言葉に甘えて風呂に入った。異世界、もとい俺の元いた世界の人間が転移されるからか、似たようなものがいくつかある。お風呂やトイレ、キッチンなど、そっくりそのままというわけではないが、それなりのものだ。水や火などは全てルトさんが『魔法』で出していると言っていた。『魔法』は『魔力』というものがある人間だけ使えるらしい。


(…ひょっとして俺にも魔法が使えたりすんのか?)


 そう思い、手を前に出し、水を出すイメージをする。


(……………まぁ、そりゃ何も起こらないよな。)


 自分が今したことを思い返し、途端に顔が熱くなる。俺は髪を洗う手を早めた。


(………早く出よ…………。)




————————————————————




 風呂から出て着替えたあと、ベッドに向かった。妙な違和感があった。ルトさんがいる気配がない。もともと彼女1人で住んでいる家のため、そんなに広くなく、2人でとなると少し狭い家だ。そんなところで全く見かけず、足音も聞こえないなんて不自然すぎる。外はもう真っ暗だが、こんな時間にどこかへ出掛けてるのだろうか。いや、この家は村から少し離れた森の中にある、村には行ったことはないが、辺りは確かに森だ。こんな夜に出て行ったら危ないということくらい子どもでもわかるだろう。


(心配だし、ちょっと家の周りを見てみるか…。)


 部屋にあったランタンのようなものを持ち、外へ出た。それ以外に明かりはなく、あまり周りが見えていない状態だった。


「うぉっ?!」


 家の周りを少し歩いたとき、何かにつまづいて転んでしまった。


「いって………ん?」


 足を動かしたとき水音が聞こえた。何か気になって足元を照らす。


















 そこには、首の無い死体があった。


「うわぁぁあ!!!」


 咄嗟に大声を上げた。恐怖のあまり呼吸がしづらくなり、吐きそうになった。すぐさま家に戻ろうとした、その瞬間だった。


「えっ…?」


 ぐさ、と何かを刺したような音が俺の胸元から鳴った。視線を下に向けると、血の滲んだ服と貫通した刃の刃先が見えた。


「ゔっ……かはっ…!!」


「こんな時間に外に出たら危ないですよ?」


 後ろから聞き馴染みのある声が聞こえた。もうあまり動かせない体でゆっくり振り返る。やはりそこには、ルトさんがいた。俺は、彼女に刺されたのだ。


「ル、ト…さん……?」


「私みたいな人がいることだってあるんですから。」


 彼女は、俺に刺した刃を一気に引き抜いた。


「ぐぁっ……!!」


 俺は立っていられるはずもなく、そのまま血を吐きながら前に倒れた。すると、彼女は倒れた俺を蹴り、仰向けにした。


「な……んで……。」


 だんだん薄れていく意識の中、精一杯口を動かす。


「なんでって、言ったじゃないですか、が趣味だって。」

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繰り返す死と異世界生活 鳥島 烏 @maron_m

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