繰り返す死と異世界生活
鳥島 烏
第1話 異世界転移
(俺、死ぬのか…。)
俺は今、車に撥ねられ、横断歩道の真ん中で血を流しながら倒れ込んでいる。
「おい!!ユキトしっかりしろ!!」
意識が朦朧とする中、幼馴染のユウタの声だけが聞こえた。一緒に通学していたが、どうやらユウタは無事なようで少し安心した。何か言葉をかけようと思ったが、声は全く出そうにない。
(せめて別れの言葉くらい、言いたかったな…。)
そんな思いも虚しく、俺の意識は途絶えてしまった。
見知らぬ天井と見知らぬ女性が見える。これがよく聞く走馬灯というものなのだろうか。だが、俺はこんな場面に遭遇したことなんてなかった。ここがどこか考えていると、見知らぬ女性がこちらに振り返った。
「あっ、目が覚めたんですね!」
見知らぬ女性はそう言って俺に駆け寄る。そして、とても安心したような表情で俺の顔をじっと見つめた。
「森の中を歩いてたら、あなたが瀕死の状態で倒れていたんです。意識が戻って本当に良かった…!」
状況が読めなかったが、この女性が俺を助けてくれたことだけは理解できた。俺はお礼を言わねばと体を起こす。
「大丈夫ですか?まだ動かない方が…」
「だ、大丈夫です、あの、助けてくれてありがとうございます。」
「いえいえ!だいぶ元気になったようで安心しました。一応、治癒魔法もかけたんですけど、転移者の方に効くかどうか不安だったので…。」
聞き馴染みのない言葉がいくつか聞こえた気がする。まだきちんと状況を整理できてないときにそんな言葉を聞かされ、より一層混乱してしまう。
「あっ、ごめんなさい。こんなこと言っても混乱させるだけですよね。」
俺の顔を見て察したのか、女性は謝罪した後、「お腹すいてませんか?」と言って俺の目の前に食事を用意してくれた。意識を失ってからどれくらいの時間が過ぎているのか分からないが、確かに腹は減っていた。
「とりあえず、もう少し落ち着いてから順を追って色々説明しますね。あ、これ、毒とか入ってないので、安心してくださいね。」
彼女なりに俺の緊張をほぐそうとしているのだろうが、今の状況的に逆効果だった。だが腹は減っているし、彼女は俺を救ってくれた恩人だ。そんな人を疑うのは良くないと思い、用意されたものを食べることにした。
「はい、ありがとうございます、いただきます。」
「…どうですか?お口に合うといいんですけど…。」
「…ト、トテモオイシイ、デス。」
正直、おいしいと思えるものではなかった。どうにかしてその思いを表に出さないようにしたが、どうやら思い切り出てしまっていたらしい。
「そ、その顔は絶対思ってないですよね…。ごめんなさい、私、料理はほんとだめで…、頑張ってはみたんですけど、やっぱり不味いですよね…、村で何か買ってくるので、それは置いといてください。」
彼女は申し訳なさそうに言った。
「あ、いや、ほんとにおいしいので大丈夫です!全部食べます!」
俺は咄嗟にそう答えた。彼女は「優しいんですね。」と笑いながら、俺が食べ終わるのを待ってくれた。
「ごちそうさまでした。」
食べ終わった後、口直しにと紅茶のようなものを出してくれた。「これはどこにでも売ってるものなので、ちゃんとおいしいですよ!」と彼女は言った。なんとも反応に困る。
「いろいろ用意してくれてありがとうございます。」
「いえいえ。そういえば、自己紹介がまだでしたね。私はルトといいます。あなたの名前を聞いてもいいですか?」
「はい、俺はハナミヤユキトっていいます。それでその…、俺は今、どういう状況なんですか?」
そう聞くと彼女は、この世界のことを教えてくれた。どうやらここは、数十年に一度の割合でこことは違う別の世界から転移される人間や、転生する人間がいるらしい。そしてそういう人間は一つだけスキルをもっているという。つまり、俺は異世界に転移され、そして既に何かスキルをもっているということだ。だが、今のところどんなスキルなのかはわかっていない。異世界なんて本当に存在するとは思わなかったが、実際来てしまった以上信じるほかないらしい。
「…てことは、誰かが俺を転移させたってことになるんですよね?誰が何でそんなことを?」
「さぁ、そこまではちょっと…。私が知ってることもこれくらいで、あまりお役に立てずすみません。」
「あ、いや全然、教えてくれてありがとうございます。」
誰が何の目的でやったのか、何故俺を選んだのか、謎な部分は多いが、今日はもう考えるのはこれくらいにしておこう。また頭がパンクしそうだ。
「いえいえ、あ、そうだ、ユキトさんがよければ、しばらくうちに泊まってもいいんですけど、どうですか?突然知らないところに来て、身寄りも、失礼ですけどお金もないと思うので。」
「え。」
(それは色々とまずいんじゃないか?元いた世界じゃないにしろ、男が初めて会った女の子の部屋に泊まるなんて、でも身寄りも金も無いのは事実だし…。)
などとごちゃごちゃ考えたが、俺は結局、ルトさんの家に居候することにした。
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