食材の優越感

 リシュと山歩き。


 いつもの散歩といえば散歩なんだけど、今日は目的が散歩じゃなくって、アスパラガスの収穫。カヌムの魔の森に生えてたのを移植したものなんだけど、手入れもしていないのに元気よく育ってくれている。


 アスパラソバージュ? 知らない子ですね。俺が苦手なだけで、アスパラガスより人気があるんだけど。


 春の若草の匂いを嗅ぐリシュの隣で、親指よりも太いアスパラガスをパキッと収穫。株が古いほど――たぶん根が長くなるほど――太くなるって聞いたんで、頑張って根っこ掘った甲斐があった。


 もちろん精霊の影響もあるだろうけど。みずみずしいというか、折った断面から水が垂れてくる。


 キノコもたくさん。なんか春でキノコ? って未だに思うけど。けっこうお高いモリーユ。アミガサタケみたいなキノコで、いろんな色がある。いろんな色といってもモリーユは黄土色か黒っぽくはあるんだけど。ちょっと赤っぽい黒とか、青っぽい黒とか、茶色の強い黄土色とか、そんな感じ。


 精霊の影響で、青い薔薇も黒いチューリップもありますな世界だからね。


 で、黄土色系のモリーユは生は香りも味もイマイチで、干すと香りも味も格段に上がる。なので、こいつは保存用。黒系の方は干すと逆に香りが抜けるので、そのまま使う。


 たくさん収穫して、あとでみんなにも届けよう。


 で、本日の料理は山菜料理。山菜らしい山菜はうちの山にないんだけど、アスパラガスとキノコ狩りで気分を出した。クレソンとセリは植えて順調に増えてるんだけど。ウド、タラの芽、コゴミ――山菜は『食糧庫』からです。


 ウドは大鋸屑おがくず籾殻もみがらをかけて、その中で長く伸びたものが白くて柔らかい。野生だと落ち葉に埋もれてるとかじゃない限り、茎はもっと力強くて硬い。地面から顔を出した緑の芽も好きだけどね。これは白いところを薄切りにして、生のまま酢味噌和え。


 コゴミとタラの芽は天ぷら。まだ開ききらないタラの芽もいいけど、開いた状態もパリパリサクサクして好きな俺です。選ぶの失敗すると口の中でゴワゴワするだろうけど、なにせ『食糧庫』の食材の品質は一定だからその心配もないんだよね。


 クレソンもモリーユも天ぷら、アスパラガスは茹でてマヨネーズと醤油。セリは卵とじの汁物。


 日本にいた時って、季節のものを食べるのにそんなに拘ってなかったというか、何が季節のものかも気にしたことなかったんだけど。


 こっちの人は、季節ごとに色々楽しみにしてるし、特に冬があけた春のこの時期は少しだけお祭りみたいに浮き足立つ。完全に影響されてる俺です。


 魔の森に生えるものを嬉しそうに収穫してくるのを見ると、故郷の味なんだろうなーって思って、俺も日本にいる時に行ったことないのに、山菜採りに行きたくなるし、食べたくなるんだよね。毎年この時期は。


 みんなで魔の森に色々取りに行く約束もしてるけど、ちょっとこの郷愁は俺だけのもの。――勇者たちはノーカン。モリーユの天ぷらやら、なんだか分からないゼンマイみたいなのくらいなら食ってるかもしれないけど。


 食事をするたび勝ったと思う。


 ご飯は炊き立て。セリの汁物を一口。出汁と醤油の汁、鼻に抜けるセリの香り。サクッとタラの芽の天ぷらを噛み砕く。うん、この独特のほろ苦さがいいよね。

 

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