カクヨムメールSS@友達との日常
カヌムに買った俺の家。ランタンがたくさん下げられた、こっちの世界にしては明るいカードゲーム用の部屋。
そこに俺を含めて男が五人。いや、ハウロンは女性カウントの方がいい? まあ、見た目男が五人、精霊が何匹か。
金ランクの伝説の冒険者、王狼の二つ名を持つディノッソ。同じく影狼の名を持つノート――格好も行動も執事。老人だけどやたらガタイがいい大賢者ハウロン。そして俺の兄貴分で師匠なレッツェ。
ここにカーンを加えて、だいたい六人でカードゲームをしている。ゲームをしながら色々話して、酒と料理を楽しむ気楽な時間。時々ほっぺたをのばされるけど。
下げられたランタンの一つに、ハウロンの使役する火の精霊ファンドールが座って、興味深そうにこっちを見ている。
ファンドールの尻の下に、一反木綿みたいな精霊が敷かれてもがもがしてるけど、ハウロン的にあれはいいんだろうか? そういえば契約してる精霊でも、自己主張が強い奴じゃない限り、ちゃんと喚び出さないと光の玉とかモヤみたいに見えるんだっけ?
ディノッソのドラゴン型の精霊は恥ずかしがりなのか、見ようと思わないと見えないし、執事のテルテル坊主みたいな精霊は、俺が糠床に突っ込んで以来、物理的に距離をとって姿を見せない。
その点ハウロンの四匹の精霊はよく現れる。その中でもファンドールは人にも興味津々。一反木綿みたいなのは隠れたい派みたいだけど、ファンドールに踏まれたりいじられてる時には姿が見えちゃうみたい。
ハウロンの精霊のことは置いといて。
「さて、本日お集まりいただいたのは、こちら」
カードゲーム用のテーブルに真っ赤なビロードの敷物、その上のこれまた紫のビロードに覆われたものを手のひらで示す。
「なんだ、また変なもの作ったのか?」
ディノッソが腕を組んで、ため息をつきたそうな顔。
「艶やかなビロードでございますね。王冠や王笏を置くレベルのものとお見受けしますが……」
執事が怪訝そうに言う。
さすが執事。このためにわざわざナルアディードまで行って、高級品を買ってきた甲斐があった。でも中身を気にして欲しい。
「王冠も王笏も持ってないぞ」
ビロードがかけられているものは、明らかにその二つとは違う形。この形で王冠だったら困る。
「ジーン、王笏は『王の枝』の代替品でしかないのよ? それもものすごく劣化した」
ハウロンの窘めるような言葉。
「エクス棒は入ってません」
王笏の上位変換を持っていたようです。現在、『王の枝』であるエクス棒は俺の腰のフォルスターに棒の顔して納まってます。だって棒だもの。
「持ち歩いていない普段はどうしてるのよ? 扱いに不安を覚えるんだけれども! 置きましょうよ、ビロードの上に! なんならアタシが贈るわよ!?」
「僭越ながら私も手配させていただきます」
ハウロンと執事。
この二人は『王の枝』にとても思い入れがある。外出しない時はエクス棒を壁に立て掛けてるだけで時々リシュがかじってると、正直に伝えたら泣かれそうなんで黙っとく。
『王の枝』を手に入れた者は、王になるか、王を見出す資格を得た者。俺は王様になるつもりがなくって、誰かを王に指名するつもりもない。そもそもエクス棒が『王の枝』だって知らなかったし、俺にとっては愉快な相棒だ。
そういうわけで、エクス棒本人もリシュも楽しそうなんでいいと思ってるんだけど、雑に扱うとハウロンが叫んで執事が絶句するんだよね。俺がエクス棒であちこち突き回すのには慣れたみたいだけど、それでもなんか絶望の表情で見られるし。
「高い布を見ただけで満足したから、中身は見せなくていいぞ」
レッツェが言う。
「ひどい、前回扱いに文句がありそうだったから用意したのに! 金糸の下げ飾り付きだぞ――というわけで芽キャベツです」
紫のビロードをぱっととって、畑から鉢に植え替えた黄金の芽キャベツ披露。
芽キャベツってキャベツの小さいうちのやつか、キャベツの葉の間に新しく顔を出した芽とか、そんな感じのものだと思ってたのに、長く伸びた芯にびっしり小さいのがついてるんですよ。キャベツの仲間だけどキャベツじゃない衝撃、それが金色! なかなかシュール。
「どういうわけだよ」
レッツェが半眼でつっこんでくる。
「また『黄金の林檎』……じゃない、『黄金の野菜』つくったの? 前回、もう精霊に作らせないようなこと言ってなかった? そんなぽこぽこできるもんなの? なんで芽キャベツなの?」
声が動揺してるディノッソ。
みんなの憧れ王狼さん、しっかりして? 憧れてる人代表ディーンが泣くぞ。
「林檎は林檎の味で美味しく、果物の容姿を逸脱するのはやめろって精霊にお説教はしたんだけど、なんかやっぱり時々できる。精霊も新顔の流入が激しいから……」
説教した精霊も、林檎じゃなければいいと思ってそうだけど。
あと多分、俺が本気で困ったり怒ったりしてないから、時々作って探し当てられるのを楽しんでる。
「ビロードの上に鉢植え――いえ、価値的に考えれば正しゅうございます、な」
微妙に納得できていない感じの執事。
複数のランプの光を浴びて、きらきらと輝いている黄金の芽キャベツ。それにみんなの視線が集まっている。
「ほら、前回見せた時には、もうウサギ林檎にしちゃったやつで、普通は丸のまま保管しとくもんだってハウロンが言ってたから」
今回は丸のまま持ってきました。
「アタシのせい!?」
ハウロンが目をむく。
「確かに切り分けられた『黄金の林檎』に苦情めいたことは言っていたな、苦情というかごくごく常識的なことだった気がするが」
レッツェが言う。
「そう、林檎は結局みんなで食べたけど、なんか悪いことしちゃったなって。せっかくまたできたし、今度は切ったり割ったりする前に見せに来た」
レッツェは林檎を自分では食べず、ツタちゃんの植木鉢に入れてたけど。
「お気遣いありがとう? いらない」
頭をかかえてバッサリなディノッソ。
「黄金が鉢に植わってるのはシュールだな。見たからもうしまえ」
レッツェ。
「せっかく全部金色になるの待って見せに来たのに」
受けが悪かった。
しょうがないので引っ込める。
「すごいものなのよ! 扱いがぞんざい過ぎない!?」
俺じゃなくってハウロンが二人に叫んだ。
「お? じゃあハウロン持ってく?」
引っ込めたのをもう一度出す。
たぶん同じ効果な黄金の林檎は、継続的な供給ができるとかで国同士の争いの元になるレベルだって言ってたけど、大賢者様ならきっと持ってても安全。
「いらない」
ハウロンがスンと真顔になって一言。
「ひどい!」
上げておいて、否定。
「苦手なのよ、その丸いものがたくさん集まってるのが。……ダンゴムシみたいで」
ハウロンが自分の両肩を抱えて大袈裟に震えて見せる。
「……」
ハスの実のも苦手な人いるしね。いや、ダンゴムシによほどよくない経験があるのか……。黄金の芽キャベツを大人しくしまう俺。人が苦手なものを出しとくのよくない。
「ワインをどうぞ」
微妙な沈黙が落ちたところで執事がグラスを配る。
「おう。今日は何を食わせてくれるんだ?」
ディノッソがグラスを受け取りながら言う。
「今日は芽キャベツのグリルにハマグリのスパゲティ」
「……金色してねぇだろうな?」
レッツェが口に持っていきかけたグラスを止めて聞いてくる。
「普通の、普通の。そろそろできるかな」
クッキングストーブに突っ込んでおいた鉄の大皿を引っ張り出す。
太めに切ったベーコンと、半分に割った芽キャベツ。芽キャベツはグリーンと黄色の断面がいい具合にしんなりしてちょっと焦げている。そこに粉チーズをたっぷり振りかけて、それぞれの皿に盛る。
配膳は執事がちゃっちゃとやってくれるのでお任せ。
「こっちは人参のポタージュね」
そう言ってこれまたクッキングストーブにかかっていた鍋からカップに注ぐ。注いだ後に生クリームをひとたらし、パセリ少々。
「次、ハマグリのパスタ」
ハマグリたっぷり。ここにいるみんなは少し辛めが好きみたいなので、鷹の爪を少し多めに。なお、揃って食べたいのでパスタは先に作っておいて『収納』から出した。いつまでもしまったときのままなのは便利。
カードゲーム中も色々つまむので、量は少なめ。つまみは牛肉の串焼きと、いつものチーズ盛り合わせ、果物の予定。
みんな揃っていただきます。
「はー。ジーンの料理はうまいな。ちょっと使ってるのが金色してないかドキドキするけど」
ディノッソ。
「旦那は金色の何かを食ったところでそう変わんねぇだろ。元々強いし、精霊持ちだ」
「知らずに国の争う元みたいな値段のもの食ってたらやだろうが」
変わらないのは否定しないんだ、とディノッソとレッツェの会話を聞いている俺。ディノッソ、俺にとっては人のいいお父さんなんで、どこまで強いのか分かってないところがある。
「普通の食材だって怖い金額してんだろ。金額に関しては考えねぇほうが幸せだ」
「アッシュ様に贈られる、甘味……」
レッツェの言葉に、今度は執事が反応した。
うん、アッシュに贈るお菓子には、こっちの世界で馬鹿高いチョコレートやバニラもたっぷり使ってる。それより、品種改良済みの苺があれなんだけど。
「レッツェこそ食べて、魔力アップして精霊を連れたらいいのよ」
「俺には分不相応だっつうの。今更扱いきれねぇ」
「レッツェ様にはぜひジーン様の冒険について頂いて――」
「お前ら、自分でついて行ってから言えよ。死ぬわ」
レッツェがハウロンに言われて断り、執事に言われて断り。
「私はアッシュ様のおそばに。ジーン様の冒険の地は範囲外でございます」
しれっと不参加表明の執事。
「俺には愛する妻と子が……」
視線をそらすディノッソ。
ここだけの話、俺はその妻と子とダンゴムシ捕まえに行ったり、時々あちこちご一緒してます。
「ついていきたいけど、冷静でいる自信がないのよ。ジーンを止められる自信もないし……。その点、レッツェが一緒にいてくれたら安心よぅ」
大賢者の精神安定剤レッツェ。
「焼肉だって呼ばれて行ったら、ドラゴンの解体だったしな……」
遠い目をするディノッソ。
「焼肉したじゃん」
「ドラゴンの肉、おいしかったけどね!?」
ディノッソがどこか悔しそうに叫ぶ。
「美味しゅうございましたな」
「美味しかったわねぇ」
「美味かったな」
執事、ハウロン、レッツェが頷く。
「美味しければ解決とか思ってるな?」
レッツェにほっぺたをのばされる。
思ってます、思ってますが! 口には出さないよ!
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