第5話 サブキャラの作り方②


ーー鷲宮到着30分前


「いい加減開けてくれませんかね、志賀さん」

「い、いや帰ってもう学校なんて行きたくないの」

「まぁ確かに、仲良かった友達が亡くなったなら行けなくなるのもわかりますが、ずっと引き篭もるのが正しいと本当に思ってるんですか?」

「……あなた、なんでその事を知って」


 片桐のその言葉を聞いて、志賀奈緒の扉を閉める力は弱まりその隙をついて、片桐は足を扉に挟ませた。


「さぁ、観念しなさい!」

「こ、来ないで!」


 それを見た志賀はヤバいと思い扉を反射的に勢いよく扉を閉めた。


「痛ったぁぁあ!」

「ちょ、ちょっとあなたなにやって」

「うるさい開けるのです!あなたはもうサブキャラ、故にもうあんな目に遭うことはありません」

「は、サブキャラってなに……あっ」


 そのまま強引に片桐は扉をこじ開け、部屋の中へスっと入っていった。


「ちょっと何入ってるの、出ていってよ」


 そう言って志賀は部屋へ入った片桐を追い出そうとグイっと片桐を部屋の外へ押したが、片桐は逆に自身を押し出そうとする志賀の手を握り、押し返した。


「いいえ出ません!ここから出ねばあなたは一生後悔と自責の念に苛まれます、でもそんなこと思ったとしてももう仕方ないのです」

「仕方ないってなに!そんな風に言わないで、私がもっとしっかりしていればあんな事には……」


 そう言うと志賀はポロポロと涙を流し始め、膝から崩れ落ちてしまった。


「いいですか、例のいじめの件貴女は何一つ悪くないです、でも忘れていいものでもありません」

「ううっ」

「そしてそれに囚われてもいけません、故にあなたはこれから私と共にサブキャラとして生きて行くのです」

「何よそれ!」


 志賀は片桐の言葉を聞いて激昂し、床を思いっきり叩いた。


「あなたは中学時代それなりに上位のカーストにいて、そこで貴女は男女七人のグループを作り青春を謳歌していたと聞きました」

「それが何?」

「ですがその中のうちあなた以外の五人が一人の女の子をいじめ始め、その後にクラス上位カーストのいじめ故に次第にクラスでのいじめに発展したとも聞きました」

「そうよ、菜々子はそれで……」


 志賀はその名を口にするとそのまま口を押さえて蹲ってしまった。


「それもこれもあなたがサブキャラ出ないことが原因なのです」

「ど、どういうことよ」

「確かにその菜々子さんの件は悲しい事です、でももう過去のことです、故にこれからの学園生活であなたが恐れているのは2度目が起きたらどうしようという事なのでは?」

「……」


 片桐の言葉を聞いて、志賀は無言で頷いた。


「ですが2度目は回避する方法があります」

「え?」

「それはあなたがサブキャラになれば良いという事です」

「は?」

「あなたの身に起きた悲劇はクラスの上位、いわば主要キャラ枠にいたから起きた事です、それ故に高校ではそういったところかれ距離をとってサブキャラ枠にいれば大丈夫という事なのです」


 志賀には片桐の言葉の意味はわからないかったが、片桐の伝えたいことはわかった。


「でもそれってつまり、菜々子の時みたいないじめが起きた時も、私は外野にいていじめを前回みたいに黙って見てろって事だよね」

「いいえそれは違います、前回あなたがいじめを止めることができなかったのは主要キャラ枠である事に拘っていたからです」

「……え?」


 志賀は片桐の思いもよらない言葉に絶句した。


「確かにそのいじめの件関していえばあなたにまったく非はありません、しかし友人として彼女を守れなかった事については非があります」

「う、嘘よ」

「嘘ではありません、酷い事をいいますがあなたはいじめを止めたり、ご友人守ったりすることはできたはずです」

「や、やめてよ」

「でもしなかった、いやできなかった、それはあなたが主要キャラだったからです、その立場を捨てるのを無意識に恐れ行動できなかったからです」

「うるさい!黙れ黙れ黙れ!」


 志賀はその言葉を聞いて辺りにある、リモコンやスマホを片桐に投げつけた。


「故にあなたはサブキャラになる必要があります、サブキャラには失う立場がほとんどありません、その為そういったいじめが起きた際は影ながらその子を支えたり、時には矢面に立つ事さえもできます」

「……無理よそんなことできっこない」

「やってみなければわかりません、それにサブキャラのそういった辛い部分はフォーカスされません、故に他愛もない事だと割り切れば良いのです」

「無理だよ…」

「大丈夫、サブキャラ教会会長の私は常にあなたの味方です、それに頼りないですがフォロワー元1000人の主人公くんもいます」


 もう私はまともな学生生活は送れないのだと志賀は諦めていた。

 しかし、目の前の片桐を見ているとまともでなければ学生生活は送れるのかもしれないと思った。


「し、信じていいの?」

「はい、もうあんな悲しいことは断じて起きません」


 そう言って片桐は静かに志賀の手をとった。


「さぁ!今日からあなたもサブキャラです!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

こんなのがヒロイン⁉︎"元"主人公くんはサブギャラちゃんに逆らえない。 神崎あら @takemitsu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ