我を忘れて。
- ★★ Very Good!!
青春という幻想の甘さの中にほろ苦い現実が描かれている。「恋に恋している」と言ってしまえば、途端に幼稚なものになってしまうが、一人の少年が成長していく様子は、どこかに悲しみを感じさせるものがある。大人になるとは決して喜ばしいことばかりではない。
幻想の甘さと現実の苦さが微妙な均衡を保っている感覚が素晴らしかった。少年が大人になる一瞬間を捉えた物語として成立している。愛とは献身的になることであるとは限らない。自我を貫き通す我儘さが愛となることもある。
愛とは誰かのためでなく、自分を救うためにあるものなのではないか。そんなことを改めて考えさせられた。そう思うと、タイトルに込められたメッセージが垣間見えるようで二度楽しめる。大人にこそ響く愛のあり方を問う物語であった。