明けの虹
多賀 夢(元・みきてぃ)
明けの虹
こんな生活は、終わると思ってたのに。
降り始めた冷たい雨を身に受けつつ、私は体を引きずるように駅に急いだ。急ぐと言えど、PCを含む荷物は重く、小回りを考えたショルダーバッグもパンパンだ。
仕事で身体を壊した私は、長い長い闘病を耐え、在宅の仕事に就いた。たまのミーティングはあるものの、全体にゆったりした流れが続いていた。
しかし成果が芳しくないと焦った上が、もっと収益をと強欲になった上が、新しい技術や機材に手を伸ばし始めた。
それらでモノを作るのは下である。
雇われた側の我々である。
私は自費で宿と高速バスの代金を払い、講習に赴いている。この構図は、かつての黒企業勤と同じだ。
あれ。
降り初めの空に、不釣り合いな虹が出ていた。普通、虹は夕立が止むときに出る。それが不幸が去った後の希望のようであると、人々は虹を好み、虹を愛す。
だけど、私が見ているのは朝の虹。黒い雨雲が迫る直前、輝く希望が儚くなるように消えていく。
まだ回復しきらぬ身体が、急な吐き気を訴えた。過去にはそのまま倒れた事もあったが、悲しいかな今の私はまだ立てる。
雨はわずかに強くなる。しかし傘を出す時間はない。
私は、空を見るのをやめた。前を見て駅舎に走った。
明けの虹 多賀 夢(元・みきてぃ) @Nico_kusunoki
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