同居人がコロナに罹った

 コロナ禍も三年目を迎え、世間ではそろそろマスクも解禁していいんじゃないかという論調が出てきた。確かに一時期の混乱を考えると随分とコロナ関連のニュースも落ち着いてきた感じはする。

 そんな時こそ油断大敵なんだろう、とつくづく思い知ることになった。


 ゴールデンウィーク明け、同居人はフレックス制での連休となったわけだが、仕事が一段落ついてホッとしたのか金曜の夜に発熱した。

 風邪の引き初めかと思い葛根湯を飲んで就寝したのだが、翌朝ほぼ三十九度Cという高熱を出し、翌日の昼過ぎまでおよそ一日半高熱にうなされ、喉の腫れを訴えた。

 ろくに食事もできないので水分補給と栄養補助的なゼリーパウチだけを口にして額に冷えピタを貼ってひたすら横になっていたところ、月曜日には平熱に戻っていた。


 しかし、このご時世である。

 万が一を危惧して保健所に電話し、コロナ検査を受けられる病院を調べて検体を提出したところ案の定、陽性反応が出た。


 最近の検査は唾液から検体を取れるそうで、おそらく問診から何から五分、十分程度で採取も会計も済むのだが、相変わらず病院の担当者は完全防備だった。

 これから暑くなる季節だというのに、コロナ禍が収束するまでずっとフル装備で対応しなければならないというのは、本当に大変なことだと改めて頭の下がる思いだ。


 余談だが、検査一回およそ二千五百円程度だったらしい。

 今時、電話での事前予約に加え問診票はwebでサクッと作成し、保険証を添付して事前送付しておくと、現場でのお会計も非常にスムーズという流れになっているようだ。

 検査結果が出るのに一日程度必要らしく、当然病院から自宅へは直行直帰したわけだが、翌日昼には電話で検査結果の連絡をもらい、感染者本人も私もそれぞれ職場に連絡し、自宅待機と相なった。


 既に熱は下がり、多少喉の違和感はあるようだが平常と変わらない生活ができる感染者本人は向こう十日間、濃厚接触者となった私は向こう七日間外出禁止である。

 一応、二回のワクチン接種済である私の方は特に体調に変化もなく至って元気なのだが、発症していなくても罹患している前提で引きこもり生活をスタートすることになった次第である。


 引きこもり生活の準備。


 さて、検査結果を受けた翌日には保健所から電話を受けた。検査をしてもらった病院から陽性反応の結果報告が保健所に受理されたそうで、改めて保健所の担当者から体調の変化の有無、自宅待機期間の過ごし方や期間中に容態が急変した際の二十四時間電話受付窓口の案内を一通りもらった。


 感染者本人と濃厚接触者は一日二回の検温が義務づけられ、後日送付されてくる書類に必要事項を記入していく仕組みらしい。

 予定待機期間の最終日に再度保健所から電話確認を受けて、問題なければ晴れて自由の身というわけだ。


 感染者の待機期間は十日間だが、終了三日前に体調が再び悪化した場合は待機期間がさらに延長されるとのことだ。

 当然、感染者は隔離しないといけないのだが、洗面やトイレなどはどうしても共有になってしまう。完全隔離とはいかない住宅事情の悩ましいところである。とりあえず、掃除はこまめにすることにした。


 少しでも隔離感を出すために、とりあえず感染者の寝室のベッド周りを余っていたカーテンと画鋲でざっくり天井から覆うことにした。

 これならドアを開けて丸ごと空気筒抜けを多少は軽減できることを期待する。空気清浄機もスイッチオンだ。

 感染者本人も隠れ家みたいでむしろ落ち着くとご機嫌だったので、突貫工事だが結果オーライである。


 ちょっと羨ましかったので、私も余っていた寸足らずのレースカーテンの折り上げや二つ山のつまみを解いて自分の寝室のベッド周りになんちゃって天蓋風の仕切りを増設してみた。

 一応、罹患している前提の対策と言い訳しておく。

 あとは定期的に換気を行い、室内でも常時マスクを着用、手洗いうがいを徹底することで二次感染予防とする。もはや屋内キャンプのノリで自宅待機を楽しむことにした。


 経過観察。


 一日二回の検温は一応ばっくり朝晩で固定することにした。

 朝は若干低めで三六・四、五度Cくらい、夜は高めで三六・七、八度Cくらいを推移している。

 私の平熱がだいたい三六・六から八の間なので、そもそも体温高め人間であることを前提に本日も至って元気である。


 同居人もすっかり平熱のようだが、喉の閉塞感は若干残っているようで、水分や食事の嚥下時に時折咽っているのが聞こえてくる。本人曰く、痛みの類はないらしいが、傍目には飲み込みが下手くそになっているのが少し気になる。


 このコロナ禍でリモートワーク化が進んだので、その辺りの融通が効くのはこういう時に本当にありがたいとしみじみ実感する。

 いやはや、今日もリビングに机を出して外の景色を見ながら仕事である。

 在宅が増えるならと昨年思い切って引っ越しして良かったと、一年越しに実感している次第だ。引き篭もりストレス値は大幅減である。


 そして、十日後。


 大人しく引きこもっている間、体調の変化もなく運動不足で肩こりがひどくなったこと以外は万事順調である。冷蔵庫の野菜が底をついて来たので、そろそろ買い出しに行きたいところだ。


 午前中に保健所から電話がかかってきて口頭確認を終え、無事に自宅待機解除と相なった。

 あとは後日送られてくる書類待ちだが、何にせよ翌日から大手を振って外出できる。


 同居人のベッド周りに設置したカーテンを撤去しようとしたところ、えらく気に入ってしまったようでレースカーテンに取り替えて引き続き設置することになった。

 どこかで見たことある光景だと思ったら、アレだ、昔懐かしい蚊帳だ。私の方はサクッと撤去である。


 生鮮食品はどうしても鮮度の問題があるのでストックに限りができるのが課題だ。こういう時、冷凍野菜も多少備蓄しておくのは大事だなと改めて痛感する。米と小麦粉と冷凍肉類、そして缶詰が大活躍した引き篭もり生活だった。

 冷凍食品も多少は買い置きしておいたが、思ったほど活躍しなかったので我が家の緊急ストックリストは一度見直した方が良いのかもしれない。


 ともあれ、無事に事なきを得てホッとしている。

 三回目のワクチン接種をどうしようか悩んでいたところなのだが、こうも身近に感染者を出してしまうと、やはりブースト一発追加しておくべきなのか……。


 しかし、今回感染が判明した同居人はワクチン未接種だ。

 それで軽症で済んだのだから、世間で言うところの変異しまくったウィルスが弱毒化しているということなのかもしれないし、同居人は今後もどうやらワクチン接種をする気はなさそうだ。

 私もワクチン信者ではないので、打ちたくないならそれで良いと思っている。


 もっとも、接種のタイミングや寝込む期間(?)をある程度自分でコントロールできるワクチンというのは、仕事や家事を考える上では事前予定を立て易いという利点はある。

(いきなり検査で「陽性でした、今から十日間外出禁止です」というのは、本当に色々予定が狂う)


「(コロナに罹ったから)もう大丈夫!」


「それ、今年インフルに罹ったから来年は罹らん言うのと対して変わらんトンチンカン発言な」


 無事に快癒しケロッとしている能天気な同居人に釘を刺しつつ、我が家のコロナ騒動は一旦幕を閉じたわけである。

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ビビりのワクチン接種備忘録 古博かん @Planet-Eyes_03623

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