本当にあった怖い話「宇宙飛行士の城」

ヤクメカガリ

No.34

子どもの見る夢ってのは親は気を付けて聞いてあげた方がいいと思うんですよ。馬鹿にせずにね。あの話を聞いたとき、本当にそう思いました。


―――――――――――――


 その話を僕に語ってくれた人物、仮にMさんと呼びましょうか。

 Mさんは30代の男性。地方都市で会社員をしている方です。

 そのMさんは、親しい友人だったとある人物から、数年前の秋に奇妙な話を聞かされたそうです。


「娘がね、最近変でね。毎日おかしな夢をみるんだよ」と。


 そう話してくれたMさんの友人、ここではTさんとでも呼びましょう。

 Tさんは当時妻と5歳の娘と暮らす。まあ、ありふれた所帯持ちのサラリーマンだったそうです。家族思いの真面目な人物だったと聞きました。

 そのTさんの娘がある日を境に朝起きると、


「夢の中で宇宙飛行士さんのお城をみた」と言い出すようになったんだそうです。


 宇宙飛行士のお城? なんだそれはと。

 娘さん、毎朝起きると、


「今日も宇宙飛行士さんのお城の夢をみた」とか。

「お城の周りにたくさん宇宙飛行士さんがいる」とか。

「宇宙飛行士さんに何度もおんぶしてもらって遊んだ」とか。

「今日はお城のすぐそばまで行けたの」だのと。


 逐一、夢の内容をTさん夫婦に楽しそうに話してきたんだそうです。

 変な夢ですよね。しかも毎日同じような夢が続くなんて。

 でもほら、こどもの頃って、突拍子もない夢を見るもんじゃないですか。

 最初は想像力豊かな子供が見る微笑ましい夢かなと、Tさん夫婦も途中まで面白がって聞いてたんだそうです。もともと娘さんは宇宙飛行士が好きでよく子ども向けの天体図鑑を好んで読んでたそうですし。それが夢に出たのだろうと。

 でも、ちょっと違う。しばらくして様子がおかしいとTさん夫婦は気づいた。


 その異変は、娘さんに起こったそうです。


 娘さんがね、突然よく食べるようになった。ものすごい量の食べ物を。

 育ち盛りだから、という訳では到底思えない量をね。

 毎日、ご飯をおかわりして。最初は成長期だからしょうがないと思ってTさん夫婦たちも、娘の食欲にあわせてどんどんご飯をおかわりさせたそうです。季節も食欲の秋でしたしね。そして、日に日に娘さんの食事量が増していった。やがて、平気で大人2人前ぐらいの量を、一食に食べるようになってしまったらしいんです。

 娘さんもね、もうぶくぶく太ってしまった。

 さすがにTさんたちも。「これは病気なんじゃないか」と思ったそうです。

 でも医者にもかかって診てもらっても何が原因なのかわからなかった。

 ただ医者は、


「もしかしたら精神的な要因があるんじゃないか。いわゆるストレスによる暴食。何か最近娘さんの周りで環境の変化はありませんでしたか?」とTさんに聞いたそうです。


 思い当たるといえばまあ、あのことぐらいしかなかったんですね。

 最近毎日見るという「宇宙飛行士の城」の夢のこと。

 Tさんね、改めて娘さんに聞いたんだそうです。どんな夢なのか詳しく。

 そしたら、娘さん言ったそうです。


「食べろ」と。


「お城に住む宇宙飛行士さんたちが言うんだ」って。


「たくさん食べないと。宇宙飛行士さんになれないから。もっと大きくならないと宇宙飛行士さんに嫌われちゃうから」と。


 夢の中で言われたんだそうです。

 その話を聞いてね。これは変だぞと、Tさん夫婦も不安になってしまった。

 で、その後もいろんな病院に通って娘さんの暴食と、宇宙飛行士の夢を見させないように治そうとしたんだそうです。けど一向に治る気配を見せない。

 そんな経緯があって、娘が心配になり心底気持ちがまいってしまったTさんは友人であるMさんにもとうとう悩みをこう打ち明けたんだそうです。


 Tさんが話すなんとも不気味な話を聞いてMさんも思わず言葉を失いました。なんと言葉を返していいのか分からなかったんだそうです。ただ「考えすぎだ」とか「しばらくすれば治るさ」と無難に声をかけることしかできませんでした。

 その話を聞いてからしばらく、MさんのもとにTさんからの連絡はプツリと来なくなりました。


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 次にMさんがTさんと話したのは、例の話を聞いてからしばらく経った頃だそうです。


 Mさんは疲れ切っていたTさんを心配して、あれからちょくちょくTさんとメールや電話で連絡を取ろうとした。でも、一向に取れなかった。やっと連絡が取れて会えるようになったのが、そう。四か月後だった。


 久しぶりにあったTさんはもう、げっそり痩せていたそうです。

 最初Mさんが気づけなかったらしいんですよ、その人がTさんだってことを。

 もう別人という風だった。

 驚いたMさんが、

「何があったんだ」と、聞いたそうです。

 そしたらTさんは、ぽつぽつと話しだしました。


―――――――――――――


 あの後、いくら病院に通ってもTさんの娘さんの症状の正体がわからなかった。

娘さんの食欲もあい変わらずにすごい勢いで増していった。例の夢も毎日見た。だからとうとうTさん夫婦も娘に食事制限をしようとした。

 だけど、もう駄目だった。

 曰く、夜中に娘さんが起きだすんだそうです。

 一人でに起きて、冷蔵庫の中にある食べ物を全部食べ始めるんです。かたっぱしから。

 そして、Tさんがたまたま仕事が立て込んで帰りが遅くなっていた夜にね。自宅に帰るとキッチンで娘さんが……冷蔵庫を開けて生魚を食べてたんだそうです。むしゃむしゃと。刺身じゃないですよ。なんの調理もしてない魚を。

 もう限界だった。

 おかしい。

 私たちの娘はおかしいと。

 完全に気づいたんだそうです。Tさんは。




 Tさんたちね、娘さんに何かよくないものが憑いているんじゃないかと思いはじめた。

 そして、とうとう祓い屋さんまで呼んだんだそうです。

 相談料だけでも結構とる、その手の界隈では名が通った祓い屋さんを。そして家まで娘を見に来てもらった。

 でもね、その祓い屋さん、Tさんの家に入り、娘さんを目の前にしてからずっと床しか見なかったんだそうです。

 祓い屋さん、ずっと自分の足元の方だけ見ながら。


「ああ…、まずいまずい……」


 と、ボソボソ呟いてた。

 Tさん夫婦、「どうしたんですか」と聞いたら。言ったそうなんです。


「ダメです。もうダメ」「娘さんの上の方にね。最初からずっといる。これ、ちょっとでも見ちゃだめなヤツだと思う」「ああ、もうこれは……。まずいまずいまずい……」


と祓い屋さん、汗をダラダラ流して言った。

Tさんたち、それ聞いてもう怖くてブルブル震えてしまって。

でも、もう聞くしかないじゃないですか。


「何が見えたんですか」と。

「もしかして、宇宙飛行士ですか」と。


そしたら祓い屋さん。


「わかりません。が、なんなのか。こんなの私も初めて見る。だけど宇宙飛行士じゃないです。たぶん娘さんに近づくために、宇宙飛行士の恰好をするようになったなにかです」


 祓い屋さんもう怯え切ってしまって、ほとんど絶叫のような声あげてたらしいです。

そしてね。


「もう出来ることが何もない。もう、何時来てもおかしくない。このままこの子の好きなものを食べさせてあげてください。ごめんなさい。私もすぐここから離れたい。お金も結構です。すみません、すみません……」


 と、もう身体を折りたたむようにして必死に謝って、祓い屋さんは逃げるように家を出ていったそうです。




 祓い屋さんが帰った後、Tさん夫婦はあまりの恐怖と悲しみで。もうさめざめと泣くしかなかった。

 だってもう自分の娘を助ける術が思いつかないんですから。




 その晩、Tさん夫婦は泣きながらたくさんの食事を娘さんのために用意したそうです。ステーキ、ピザ、寿司……、娘の好きなものならなんでも。

 その全部をね。娘さん、幸せそうに……、本当に幸せそうに食べたそうです。


「宇宙飛行士さんがもうすぐ迎えにきてくれる。もうすぐお城に入れる」


 と嬉しそうに喋りながら。

 そしてね。玉のように肥え太った娘を抱き締めて、Tさん夫婦はその夜、同じ布団で泣きながら眠りについたんだそうです。




そして翌朝になって。




















Tさんの娘さん、餓死状態で亡くなっていたそうです。








昨夜まであれだけ肥え太っていた身体がミイラのように骨ばった状態になって。

Tさん夫婦に抱かれながら、娘さんは亡くなってた。






―――――――――――――





 当然、この出来事は警察沙汰になりました。Tさん夫婦は警察に児童虐待致死を疑われたそうです。

 ですが、今まで通っていた病院の医者からの証言や、最期にあった祓い屋さんの証言もあり、すぐ容疑は晴れました。

 特にあの祓い屋さんは、警察関係者の間ではかなり有名な方だったようで、度々の異質な事件の後の処理に協力することがあったらしいです。娘さんの死は「自然死」として扱われこの事件は奇妙なほど速やかに片づけられたのだそうです。

 警察側からも何らかの配慮があり、ことの規模とは裏腹に今回の事件が公になることはありませんでした。

 この出来事を期に心を患った妻は入院しているのだとTさんは言いました。

 





 話を終え、最期、別れ際にTさんはやつれはてた顔でMさんにこう言ったそうです。


「最近ね。娘の夢を見るんだよ」と。




 MさんはそれからTさんとは連絡が取れてないのだと言いました。

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本当にあった怖い話「宇宙飛行士の城」 ヤクメカガリ @kagari_yakume

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