エピローグ
そして時は過ぎていった。長いようで短いような、そんな10年の月日。街の復興は終わりに近づき、新たな王が選出された。広場には平和を誓う三人の像が建てられた。三人は本当の歴史を明かし、城に囚われていた人々を救った偉大な少年少女たち。
ひとりは希代の小説家ユナイス・ミッドナイツ。彼女の先導、本当の平和を目指す勇敢な姿に多くの人間が感銘を受けた。彼女が書いた小説は没後の今も人々に愛されている。
また、それに寄り添う少年と少女。
少年は暗器を自在に操るジェルア・ウラル。東洋の血が入っているらしい少年は冷静沈着で義理堅い。囚われていた人々を逃し、さらにユナイスを討った兵の首を獲っている。
少女は人々に武器を与えた運び屋サキァル・スクウィル。行動力は3人の中で随一であり、彼女の協力がなければユナイスの計画も遂行できず、戦争に勝つこともなかっただろう。
戦争は起きた。たくさん血も流れた。我々はそれを忘れてはならない。平和でなかった頃を、なかったことにしてはならない。ヴィオラの街のことも、前代の王の愚行も、戦争が起きたことも、歴史書として纏められている。単なる資料ではない、平和を始めるために遺された軌跡。
マリオネイティスは変わった。たまに事件も起こるし、この街に移住してくる人たちもいる。絢爛豪華で理想都市で王の城があるところは変わらないが、少しずつではあるが、なんてことはない平和を臨む街になっている。
「お嬢〜! 今日も仕事頑張った!! 疲れた〜!! 仕事って嫌になるよね!! やってらんねぇ!!」
「稼ぐためには仕方ないだろ……。なにはともあれお互い、今日もおつかれさん。なぁユナイス、お前の本はまだまだ売れてるみたいだぞ。文才がないなんて大嘘じゃねぇか」
あの部屋には今日もジェルアとサキァルがユナイスに会いに来ている。いつ撮ったのかも忘れたユナイスの写真がテーブルの上に飾られていた。死者は生き返らない。誰もが自分の人生を生きるので精一杯で、他人の文まで生きるのは難しいから、今の自分ができるだけのことを精一杯やって生きる。
ふたりはもう、ユナイスの死に意味や意義を求めたりはしない。最初の頃は、彼女の死が、彼女の選んだ結末が、傷にならないように気丈に振る舞ったり、ユナイスならこう言うとかああするとか真似てみたりしたものの、やっぱりその影を探してしまった。「なんで死んだんだ」とか「ユナイスが死んだことも、あの戦争も美化されている」とか心がぐちゃぐちゃになるまで考えて泣いたことも数え切れない。もう続きが出ることのない本の背表紙を、隈の酷くなったジェルアがなぞっていたこともあった。ユナイスの姿を探してサキァルが取り乱す日もあった。
マリオネイティスは、理想都市である。
少年少女たちの勇姿と活躍は後世語り継がれ、本や歴史書に名を刻まれることだろう。
これはくだらない話。
子どもの癇癪が街を巻き込んで、平和も幸せも壊す物語。
そして、新たに平和を作り上げる物語。
──世界で一番くだらない英雄譚。
マリオネット・タウン おきゃん @okyan_hel666
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