サバ缶
白川津 中々
■
平成二十九年。
サバ缶ブーム到来。
それはありきたりな事から始まった。メディア牽引によりサバの栄養素が消費者に着目されるも、「でも青魚って調理が大変ですよね〜」との誘導的マーケティングから需要に火がつきシェアが拡大。業界最大手マルニチが五割り増しの化物じみた売上を叩き出すと、各社一斉にサバ缶の増産に着手し、スーパーコンビニ百貨店の陳列棚にサバ缶コーナーが一列追加されポピュラーフードに定着。納豆、やっこに並ぶ朝食の顔となった他、昼にはサバ缶パスタサバ缶ピザサバ缶炊き込みご飯などが食され、夜にはサバ缶のムニエルサバ缶のクリームソース煮サバ缶のポトフサバ缶のアクアパッツァサバ缶の味噌煮サバ缶の寿司サバ缶丼にサバ缶味噌汁とサバ缶サラダとサバ缶のセットなどが食卓に並ぶのが常となる。
サバ缶の勢いは留まることを知らず、「サバと缶。え? サバト感?」シリーズを筆頭としてサバ缶をモチーフにしたドラマや映画が空前の大ヒットを記録し全米の涙腺はガバガバ状態。テレビゲーム「can't of SABA」は据え置き機ながらスマフォタイトルのダウンロード数を超えるしアニメ「サバサバ缶缶」はサザエさんを終わらせた。消費税におけるサバ缶の立ち位置は既に必需品となり、「品名やタイトルにはサバ缶と付けとけば売れる」とのおざなりな認識が各業界に漂うのだった(一時期ラテ欄はおはようからおやすみまでサバ缶まみれの状態となっていた)。
そしてサバ缶ブームは世界へ飛躍。空海を渡って各地に伝来。オールオーバーザワールドで「SABACAN」と叫ばれ熱狂。国際的YouTuberが「サバ缶断ち三年します」と宣言した直後にサバ缶カクテル、マッカレルタビーを飲み炎上するなどした。
サバ缶の勢いは天井知らずとなりどこもかしこもサバ缶一色、いや一食。サバ缶のサバ缶によるサバ缶のための人民となる。このままでは青い惑星地球が青魚の惑星地球へと変貌してしまうのではないかというタイミングで、あるウィルスが生まれた。
ヒスタミンと結び付き、即効性の毒として変化するそのウィルスは高い致死性と感染力を持っていた。死に様は壮絶で、全身の穴から血を噴き出すというもの。発症直後、悪寒から脱臼するほどの震えを伴う事から寒サバウィルスと名付けられる。
寒サバウィルスはまさしく殺人的速度で世界中に広まり人類は死滅していった。蓄積されたヒスタミンが容赦なく毒へと変質していくのを止める手立てはなく、まもなくして絶滅。地球は再び青い惑星へと戻る。
と、思われたが、人間が消え、缶詰にされるはずだった大量の養殖サバが海に流出。生態系を破壊しながら拡大を続け、ついには地球そのものを呑み込むまでに至る。
サバに内包された地球は宇宙の中で自公転を続けながら啄まれるのだったが、その内にマントルが漏れ出し全部焼きサバとなり終結。宇宙の地理と消える。
サバ、完。
サバ缶 白川津 中々 @taka1212384
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