第51話 決着、“エデンの雷神”墜つッ!

 ヴァールシアは咄嗟の判断で、双剣を振り回し、レイヴィニールの戦斧から放たれた暴風と相殺していく。


「負けない! ウチはレイヴィニール! 知恵の翼様から力を授かったウチは誰にも負けないしっ!」


「レイヴィニール、貴方の忠義は尊敬の念を禁じえません。だからこそ、負けない。私達もシエル様がいるから、退くことはないのです」


「アタシを一緒にするなぁッ!」


 レイヴィニールが戦斧を構えるのと同時、瞬時に距離を詰めてきたクリムの双槍と衝突するッ!

 衝撃波は周囲へと広がり、並の生物ならば、重傷は免れないだろう。

 だが、これで終わりではない。

 いたであろう。絶対的な力の差を見せつけられてもなお、折れなかった人間が。



「人間代表見参ッ!」



 クリムの背後から、オルフェスが飛び出した。

 オルフェスとレイヴィニールの距離、白兵戦可能距離。つまり、オルフェスの絶対的間合い。

 彼女は流麗な所作で剣を振るう。その着地点は人間にとっては急所となる箇所。天使相手に、どこまでもそれが有効なのかは不明。

 そもそもあの天使相手に、ただの人間の攻撃がどこまで通用するのかもわからない。


「!? 剣が効いた? このウチが? ヒューマンごときの攻撃に?」


 しかし、ウィズへの想いのみで、今この戦場にいる彼女の執念は確かに機能していた。


「へぇ!! アンタ、ただのヒューマンじゃないわね! 見直した!」


 レイヴィニールと鍔迫り合うクリムは笑顔を浮かべた。

 その一瞬の隙を逃さなかったレイヴィニールは、クリムの武器を払い、一度距離を空けた。

 次の瞬間、彼女の背後にオルフェスがいた。


「は?」


「せぇい!」


 オルフェスがレイヴィニールの背へ剣を走らせる。


「こいつッ!」


 彼女の執念が込められた剣先はレイヴィニールの翼の根本を捉えようとした。しかし、レイヴィニールはすんでのところで、それを防ぐことに成功した。


「はぁ!? ウチがヒューマンの行動に気づかなかった!? それになぜ、翼も無いのにこの高度まで!!」


「気配を消して、ジャンプすればいいだけじゃない」


 オルフェスの戦法は至極単純。

 純粋に跳躍のみで、天使たちの戦闘高度までたどり着き、一撃与えたらまた地上まで降り、再び跳躍する。それの繰り返しだ。

 口にするのは簡単。しかし、それを可能にするだけの身体能力がなければ、ただの妄想の域を出ない。

 そのはずだったが、ウィズへの想いで身体能力がブーストされた彼女にとって、こんな事は“出来て当たり前”のことだった。


「よりにもよって、大事な翼を傷つけようとするなんて……。ウチにもプライドってぇものがある! こうもコケにされると黙ってられないしっ!」


「大事な……」


 そこにオルフェスは引っ掛かりを覚えた。

 今しがたの攻防、明らかにレイヴィニールは明確な防御をしていた。

 ただの人間の攻撃だというのに、だ。


 ――もしかして、翼になにかある?


 オルフェスは卓越した観察眼で、レイヴィニールの思惑に対して、ある程度のアタリをつけた。

 あとは実行に移すのみ。


「消し飛ばすしッ!」


 レイヴィニールは戦斧を握りしめ、地上のオルフェスを強襲する。


「自分もいることを忘れないでほしいっスよ!」


 オルフェスの前に割って入ったイルウィーンの剣が、レイヴィニールの戦斧を阻んだ。

 だが、それも僅かな間。

 第一級天使と第二級天使にはそれだけの力の差がある。


「あああ!」


「所詮は第二級! ウチと拮抗できると思ってるのかし!」


「一人じゃ無理でも、二人なら出来る」


 ふわりと、まるで羽毛が一枚舞い落ちるような軽さで、オルフェスは再びレイヴィニールの背後にいた。

 オルフェスは剣を逆手に握り直し、そのまま切っ先をレイヴィニールの翼の根本へ振り下ろした。


「これはああああああ!!」


「良い所を狙いましたね」


 ヴァールシアはオルフェスの嗅覚を称賛する。

 翼の根本は天使にとって、弱点とされる場所だった。

 人外の力の源は、翼の根本に集約されている。

 しかし、弱点がわかったからと言って、それが突破口になるかはまた別の話。

 そもそも、天使たちは自分たちが背後を取られない前提で立ち回るのだから。


「ヒューマン! お前だけはぶち殺すし!!」


 イルウィーンを振り払い、レイヴィニールはオルフェスを目指す。

 戦斧が振り上げられたその瞬間――。



「私達が目に入らなくなった時点で」


「アンタの負けよ、レイヴィニール」



 ヴァールシアの双剣と、クリムの双槍が、レイヴィニールの身体を蹂躙した。


「ヴァールシア……クリム……!!!」


 戦斧が手からすり抜け、地面へ落ちた。

 だが、彼女は倒れず、立ったまま。


「く、ふぅー……!! どーしてウチが負けちゃったんだか」


「実力差よ」


「人数差では?」


「ヴァールシア、アンタ空気読め」


 レイヴィニールはじろりとオルフェスを睨む。


「おいヒューマン、答えろし。お前はこの戦場においては最弱。だけど、こうして生き残り、ウチを打倒してみせた。その理由は何だ?」


「ウィズを愛しているからよ」


「即答か。ほんっとヒューマンはよく分からないし」


 レイヴィニールは知恵の翼を見る。


「知恵の翼様! ウチは負けました!! ほんっとすいません!」


「いいえ、謝ることはないわ。お姉さん、貴方の勇姿はちゃんと見てたもの」


「ありがたい……し」


 その一言に安心したのか、レイヴィニールは倒れ伏した。

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ヒー・ウォンツ・トゥ・スローライフ~世界をぶっ壊してしまう力を持った男がパーティーを追放された結果、世界を消滅させてしまう天使と出会い、スローライフを強く求める物語。以上!~ 右助 @suketaro07

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