なぜ壊れ物の世界を抱くの?
達見ゆう
賢者のプレゼント、凶暴な受け取り人
僕は茫然としていた。せっかく貯めていたお小遣いで買った地球儀。それもただの地球儀ではない。「パーツは天然石使用」で自分で張り付けて作るというというお高い地球儀を酔っぱらった勢いで完成直前なのに落としてしまった。
せっかく、天然石が好きなユウさんへのクリスマスプレゼントとしてこっそりと隠しながら制作していたのに。よりによってユウさんが一泊旅行でいないのをいいことに出しっぱなしで眺めながら一人晩酌していたら、トイレの帰りにテーブルに手がぶつかり、落としてしまった。
そのまま気づかず寝落ちして、目が覚めたたった今この現実に混乱をしている。床にぶつけた部分は衝撃で色のついた粉が落ちていることから少し砕けていたり、張り付けたパーツが剥がれていた。
石が外れた部分はなんとかなる。しかし、硬度が低い石はものの見事にヒビが入り、エベレストなどの山脈に見立てた盛り上がった石の一部は欠けている。
とりあえず、直せるところは直して、パワーストーンの店で代わりの石を買ってなんとかせねば。いや、山のてっぺんに色も大きさも違う石を乗っけても違和感ありまくりだ。パテと着色ならなんとかなるが、「全て天然石」では無くなる。
あああ、バカバカバカ! どうしてハイボール五百を三缶も飲んでしまったのだ。いや、飲む前に作品をいつもの隠し場所にしまっておけばよかったのだ。
買い直すにもお値段がお高い上に、在庫わずかのところで購入しているから、今から再入手するのは難しい。
自分のバカさ加減に嫌になって、軸にセットする前の壊れた地球儀を抱えて半泣きになっていた。
「なあ、なぜ壊れ物の世界を抱くの?」
「そりゃ、大切なプレゼントだったものだから」
そこまで返事して気がついた。ん? あれ? 一人のはずなのに何故問いかけがある。
声のした方を振り向くとお土産を抱えたユウさんが立っていた。
「新幹線一本早く取れたから早めに帰って来ちゃった。一緒に駅弁食べようかと思って味噌カツ弁当も買ったぞ。いやぁ、久しぶりのアウェイ観戦は良かった。他にも土産はういろうに……じゃなかった。帰ってきたらリョウタが半泣きになってヒビが入った地球儀を抱えてるから、プレゼントだったって誰かにもらったのか?」
時計を見るとお昼近くになっていた。やはり飲み過ぎたのか。って、早く答えないと「どこの女からもらったのだ」と誤解されかねない。観念して正直に話すことにした。
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「そっか、もうクリスマスプレゼントの準備をしてくれたけど失敗したわけか」
「ううう、傷口を広げないで」
「気持ちは嬉しいぞ。ヒビが入っても直せるさ。パテを隙間に入れてもいいし、見た目気になるなら金粉と漆で金継ぎにしてオリジナル地球儀にしてもいいな。ファンタジーっぽく陸や海には不思議な金の川が流れ、人々はその恵みを受けてきたって設定は面白くないか?」
ユウさんは優しくフォローしてくれた。スポーツニュースはチェックしてないけど、多分、レッドスターが勝ってお気に入りの選手がゴールしたのかもしれない。だから上機嫌なのだ。でも、凶暴さが目立つことは多いけど心根は優しいことも僕は知っている。
「ユウさん……ありがとう」
「リョウタがプレゼントを用意してくれたというだけでも嬉しいさ」
「じゃあ、出来るだけ早く残りの製作と修繕をしてみるよ」
「その前にお昼。さっきも言ったが味噌カツ弁当買ってきたから食べよう」
そう言ってユウさんは弁当とペットボトルのお茶の入った袋をテーブルの上に置いた。
「あ、じゃ、これは安全な場所に避難させとくよ」
僕は地球儀と残りのパーツを箱に入れて、隣の部屋の隠し場所だった収納庫に入れた。ユウさんはテーブルを拭いて弁当類を出している。
(ふむ、いつか、またあのゲームにログインしたら地球儀や地図に線を引いて世界征服を企む悪役を選んでプレーするのもいいな。或いは世界を線の通りに分断させて混乱させる魔王も捨てがたい)
「フッフッフ」
なんだろう、不穏な笑い声が隣からするが味噌カツ弁当相手に何を考えてるのだろう。まあ、いいや、しまい終えた僕はダイニングテーブルに戻っていくのであった。
なぜ壊れ物の世界を抱くの? 達見ゆう @tatsumi-12
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